今日は、なにノムノ?
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グランクリュ・ワインとは? 地域別の意味と楽しみ方

ワインに関する用語として、「グラン・クリュ」という言葉を聞かれたことがある方も多いと思います。

この「グラン・クリュ」とは、いったい何を意味するのでしょうか?

実は地域ごとに異なるその格付けの意味や、気になる価格帯、そしてせっかくのグラン・クリュを楽しむためのワイングラス選びなど、グラン・クリュに関する疑問とその答えをまとめました。

グラン・クリュとは?

「グラン・クリュ」はフランス語で“Grand Cru”と表記し、日本語では「特級畑」と呼ばれます(“Cru”はフランス語でぶどう畑を意味します)。

ワインの品質や美味しさは、ぶどうの品種や製法、造り手、ヴィンテージなど様々な要素によって左右されます。特に、ぶどうがどの畑で収穫されたのか? それは良い畑なのかどうか? という点は非常に重視されます。

畑にも、階級があるのです。

では、「グラン・クリュ」はすべて同じレベルなのか? …というと、実はフランス国内でも地域によって意味が異なるのです。

それでは詳しく見ていきましょう。

ワインの味を決める「テロワール」

少し遠回りなようですが、「グラン・クリュ」を理解するために、フランス語の「テロワール “Terroir”という概念をご説明します。

日本語で「テロワール」にぴったりあてはまる言葉はなく、「あるワイン(ぶどう)を形作る、土壌や地形、気候などのすべての自然環境」という意味です。

なお、“Terroir”という言葉は、「土地」を意味するラテン語“terra”が語源です。

そもそも、ワインは他のお酒と異なり、仕込み水を一切使わずぶどうだけを原料として作られます。

そのため、収穫されたぶどうの品質、そしてそれを生み出す「テロワール」こそが、ワインの味わい・品質を決定づけるのです。

多彩なテロワールに恵まれたブルゴーニュ地方

この「テロワールこそがワインの味わい・品質を決定づける」という考え方が最も色濃い地方がブルゴーニュです。

ブルゴーニュで育てられるぶどうのほとんどは、赤ワインであればピノ・ノワール、白ワインであればシャルドネと、ほぼ単一品種ですが、畑による個性の違いが多彩で、実に84ものA.O.C.(※)が存在します。

(※)Appellation d’Origine Controlee (アペラシオン・ドリジーヌ・コントローレ)=原産地統制呼称の略称。フランスのワイン産地ごとの、ぶどう品種・栽培・醸造方法などの個性を守るための法的な規制。

このA.O.C.という区分はピラミッド状になっており、ブルゴーニュの場合は上から順に

  1. 「グラン・クリュ(特級畑)」
  2. 「プルミエ・クリュ(一級畑)」
  3. 「コミュナル(村名)」
  4. 「レジョナル(地方名)」

という4段階に分かれています。

かみ砕くと、「ぶどう畑を細かい区画に分け、その中で最高峰の畑を『グラン・クリュ』と認めている」といえます。

ブルゴーニュのグラン・クリュは、ブルゴーニュ全体の生産量のわずか1.5%です。

数字を見ると、いかにブルゴーニュのグラン・クリュのワインが希少かイメージしていただけたのではないでしょうか。

ブルゴーニュのグラン・クリュはどのように生まれた?

ブルゴーニュのワインがこのように細かく階級分けされているのは、なぜでしょうか。その歴史をさかのぼってみましょう。

ブルゴーニュのワイン造りを大きく発展させたのは、2つの修道院の修道士たちでした(ベネディクト派のクリュニィ会〈909年設立〉とシトー会〈1098年設立〉)。

神に捧げるための素晴らしいワイン造りに熱心に取り組むうちに、修道院がもつ広大な土地の中でも、各区画によってワインの個性が異なることに修道士たちは気がつきました。

それから彼らは長年の観察によって、ぶどう畑を標高や傾斜、土壌、気候・日照量などの違い――テロワールの特性にもとづき、綿密な区画畑「クリマ」に分けました。

現代まで受け継がれたブルゴーニュのクリマは実に1,500近くにおよび、この中から選び抜かれた最高峰のクリマがグラン・クリュとして認められるのです。

つづいて、「グラン・クリュ」という名称を使用している他の地方、アルザス・シャンパーニュ・ボルドーについても違いを見ていきましょう。

アルザス地方のグラン・クリュ

アルザスのぶどう畑は、ヴォージュ山脈の麓と、ライン側に挟まれた約170 kmの細長いエリアに広がっています。

地殻変動の過程でヴォージュ山脈の一部が陥没したことにより、石灰岩、花崗岩、砂、砂岩など異なる種類の地層が地表にあらわれ、距離の近いぶどう畑でも土質が異なる、非常に多様な土壌がこの地方の特徴です。

アルザスのA.O.C.は基本的に「アルザス “Alsace”」「ヴァン・ダルザス “Vin d’Alsace”」の2階層ですが、一部の優れたぶどう畑には「グラン・クリュ」を名乗ることが認められており、現在51のグラン・クリュが存在します。

また、生産量は全体の約4%と、大変希少です。

アルザスのグラン・クリュの特徴は、原則として「リースリング」「ゲヴェルツトラミネール」「ピノ・グリ」「ミュスカ」の4つのぶどう品種に認められているという点にあります(※例外あり) 。

アルザスは土壌の多様性ゆえに様々な品種が植えられていますが、この4品種は、「アルザスの高貴4品種」とも呼ばれ、アルザスで素晴らしい高品質ワインを生み出すぶどうとして知られています。

シャンパーニュ地方のグラン・クリュ

シャンパーニュの「グラン・クリュ」は、ブルゴーニュやアルザスとはだいぶ異なってきます。

まず、シャンパーニュの「クリュ」は村単位です。

かつて、同地方ではぶどうの栽培農家とワイン生産者の間で、毎年ぶどうの公定価格が定められていました。

そのうえで、実際の売買価格は、「エシェル・デ・クリュ “Échelle des Crus”」(1919年導入)と呼ばれる分類に基づいて決まりました。

この分類は、村ごとに「収穫したぶどうを、公定価格に対して何%の価格で売るか」を、80〜100%の幅で定めたものです(※理論的には1~100%の幅がありますが、実際には最低でも80%にとどまりました)。

シャンパーニュには319の村がありますが、このうち公定価格100%の値段でぶどうを販売することができた17村のみが「グラン・クリュ」として認定されたのです。

なお、90〜99%の村は「プルミエ・クリュ」(44村)と呼ばれます。

そしてこのグラン・クリュの畑で収穫されたブドウのみを使用したシャンパーニュに、ラベルに「グラン・クリュ」と表記されることが認められています。

この公定価格制度自体は1999年に廃止されていますが、今でもその名残が格付けとして残っているのです。

シャンパーニュのグラン・クリュの背景

土地の個性が強く、畑ごとにグラン・クリュが認められているブルゴーニュやアルザスに比べると、シャンパーニュのグラン・クリュはその基準が大きく異なりますね。

では、その違いはどのように生まれたのでしょうか?

シャンパーニュが他のワイン生産地と大きく異なるのは、ぶどう農家とワインの生産者が分かれているという点です。

シャンパーニュは、その製造工程の特性上、ぶどうの収穫からワインとして商品化できるまで、多くの時間と費用を必要とします。

そのため、多くの農家は収穫したぶどうを自分たちでワインにはせず、「ネゴシアン」と言われるワイン生産者(いわゆる「シャンパン・メゾン」)や協同組合に販売しています。

その際、小規模なぶどう生産者が、大規模な生産者に価格交渉で不利にならないようにという生産者保護の観点から、上述の公定価格の制度が存在したのです。

ここでは詳しく触れませんが、シャンパーニュのワインづくりにおいて最も重要な工程に「アッサンブラージュ “Assemblage”」というものがあります。

これは、アルコール発酵したワインを、各ワイン生産者が自分のブランドのイメージに沿うよう、異なるヴィンテージのワインも含めて調合することを指します。

この工程により、毎年安定した品質・味わいのシャンパーニュを生み出すことができるのです。

冷涼な気候で、その年の天候によってぶどうの成熟度に差がでやすいこの地方ならではの工夫ですね。

テロワールがダイレクトにそのワインに反映するブルゴーニュやアルザスのワインづくりと比較すると、ワインづくりの考え方の違いが見えて面白いですね。

ボルドー地方のグラン・クリュ

最後に、ボルドー地方のグラン・クリュを見てみましょう。

ボルドー地方では、メドック地区とサン・テミリオン地区で「グラン・クリュ」という言葉が格付けの呼称として使用されています。

ただし、これまで出てきたグラン・クリュとはやや異なる使われ方をしています。

メドック地区では、有名な1855年パリ万博の際に制定された格付けにより、現在61のシャトーが5つの段階に分類されています。

この1855年の格付け、実はフランスでは“GRANDS CRUS CLASSÉS(グラン・クリュ・クラッセ) EN 1855”と呼ばれます。

これはどういうことかというと、グラン・クリュにあたる61シャトーがあり、それらをさらに1~5級まで細かく格付けをしているということです。

また、サン・テミリオン地区にも「サンテ・ミリオン・グラン・クリュ」が存在しますが、これはアルコール度や収穫量の規定を少し厳しく設定したA.O.Cで格付けとは関係がありません。

61シャトーがボルドーの生産量に占める割合はわずか5%以下なので、その希少さはやはり非常に高いのですが、ピラミッド状の格付け構造の最高峰にある畑だけをグラン・クリュと呼んでいるブルゴーニュと比べ、ボルドーではグラン・クリュと呼ばれる畑の範囲がやや広い、ということを知っていただければと思います。

少しややこしくなってきたかもしれませんね。

混乱してしまいがちな表記として、ブルゴーニュとボルドー地方メドック地区における「プルミエ・クリュ(Premier cru/1er Cru)」を確認しておきましょう。

ブルゴーニュ地方では、「プルミエ・クリュ」は「グラン・クリュ」に次ぐ格付けでした。

しかし、ボルドー地方メドック地区では、「グラン・クリュ」のうち、1級のシャトー(Premiers Grands Crus)は、いわゆる五大シャトーを指します。

ブルゴーニュの「プルミエ・クリュ」が8,000円前後から販売されているものもあるのに対して、メドックの「Premiers Grands Crus」は安くとも10万円から。

同じ言葉でも地方によって指すランクが異なることがイメージできれば◎です。

グラン・クリュの相場価格

それでは、実際に「グラン・クリュ」のワインを飲もうとした場合、いったい相場はどの程度になるのでしょうか?

ここまで見てきた通り、各地方によって「グラン・クリュ」の定義が異なるため、それに伴い価格の相場も異なります。

また、「グラン・クリュ」の中でももちろん差があるのですが、大まかには、1本あたりの値段は以下のような相場に分けられます。

●ブルゴーニュ地方:少なくとも1万円以上

●アルザス地方:1万円以上のものも多いが、1万円以下の商品もあり比較的買いやすい

●シャンパーニュ地方:5,000円前後~

●ボルドー地方:5,000円前後~

グラン・クリュを楽しむためのワイングラスとは

せっかくグラン・クリュのワインを楽しむのであれば、ワイングラスにもこだわりたいですよね。

レストランやワインバーであれば、ソムリエがふさわしいグラスを選んでくれますが、ご自宅で楽しむ際にはどのようなことに気をつけたらよいか、見ていきましょう。

ワインごとの特性に合ったグラスを用意しよう

たかがワイングラス、されどワイングラス。

ワイングラスの形状は、ワインの香りや味の感じ方を左右します。以下の2点に着目して考えてみましょう。

●ボウルの大きさ

ワインの液体が注がれる、ワイングラスのふくらみの部分をボウルと呼びます。

ボウルの大きさや丸みは香りと深く関係します。

形状によって香りの立ちやすさ、溜まりやすさが決まってきますし、この部分の表面積が広いと、ステアリングをした際にワインの付着する面積が広い分、香りが揮発し鼻の中にしっかりと入ってくるので、複雑なアロマの広がりを楽しむことができます。

●飲み口の広さ

ワイングラスの飲み口は、広いか狭くすぼまっているかによって、ワインの味わいの強調されるポイントを左右します。

これは、飲み口が広い場合と狭い場合では、グラスを口につけた際にワインがどのような角度で口の中に入ってくるかが異なり、そのため舌のどの部分に当たるかが変わってくるからです。

ワイングラスの形は、美しいだけではなく、ワインの魅力を引き出す機能があるのですね。

それでは、それぞれのぶどう品種やワインの性質に合わせたグラスを具体的に見ていきましょう。

代表的なワイングラスの種類

<赤ワイン用>

・ブルゴーニュタイプ

ブルゴーニュのワイン、ピノ・ノワールのために作られた、バルーン型のワイングラスです。

ボウル部分は大きく膨らんでおり、飲み口は小さくすぼまっています。

これは、ピノ・ノワールの特性である芳醇な香りをしっかりと立ち上らせ、かつ逃がさない構造になっています。

また、ピノ・ノワールの特徴である酸味を程よく感じさせるために、飲み口を狭くし、ワインが口の中に入る際、直線的に素早く舌の上に流れ、酸味を感じやすい舌の両側にワインが当たりすぎない構造になっている点も重要です。

・ボルドータイプ

「チューリップ型」ともいわれるワイングラスです。

ボウル部分がチューリップのようにゆるやかに膨らんでおり、飲み口はブルゴーニュタイプに比べると広がっています。

このグラスの特徴は、ワインの味わいが程よく調和して感じられること。

ワインが口の中に入っていきやすい形状のため、舌全体を使ってワインを味わえる設計になっています。

ボルドーのワインは、カベルネ・ソーヴィニヨンなどを主体として、複数品種をブレンドしバランスのとれた味わいに仕上げられることが多いので、このようなグラスと相性がよいのです。

<白ワイン用>

赤ワインに比べて低い温度が飲み頃とされる白ワイン用のグラスは、一般的に赤ワイン用のグラスよりも小ぶりになっています。

アルザスワインの代表格・リースリングは、爽やかな酸味を程よく感じられるよう、ワインが直線的に素早く入ってくる飲み口がすぼまった縦長グラス。

ソーヴィニョン・ブランにもこのタイプが合うでしょう。

ブルゴーニュの主要白ぶどう品種・シャルドネの、シャブリのようにフレッシュなアロマと酸味、ミネラル感のあるタイプには、それらを凝縮させバランスよく味わえるよう、小さめで短いボウルで、飲み口のすぼまったグラスを選びましょう。

逆に、樽熟させたタイプのシャルドネは、芳醇な甘い香りや樽由来のトースト香を存分に味わえるよう、またやわらかな酸味をしっかりと感じられるよう、大きく膨らんだボウルで、舌の両側にワインが当たりやすい広がった飲み口の「モンラッシェ」タイプのグラスがおすすめです。

<シャンパーニュ用>

シャンパーニュといえば、「フルート」タイプと呼ばれる、細長い形状のグラスが人気ですね。

これは、シャンパーニュの特徴である繊細できめ細かい泡が立ち上る様子を目で楽しめる設計になっています。

また最近では、せっかくのシャンパーニュの華やかな香りをより楽しめるよう、ボウルに膨らみのあるタイプも登場しています。

せっかくのグラン・クリュなら、グラスの製法や素材にもこだわってみては?

ワインの特性に合ったワイングラスの形状についてご紹介しました。

さらに、せっかくのグラン・クリュ、特にブルゴーニュのものや、ボルドーの1級シャトーなど最高級の特別なワインを楽しむのであれば、グラスの製法や素材までこだわってみるのも良いでしょう。

ワインと相性がよいと言われる「クリスタルグラス」は、非常に小さな凹凸が表面にあるため、ワインがその凹凸の中にまで広がり、香りを開かせる効果があります。

また、ハンドメイドのグラスは、細部にまで徹底してこだわった繊細な薄さやフォルムを実現しています。

最後に

こだわりのグラスで楽しむ憧れのグラン・クリュのワイン、きっと素敵なひとときになることでしょう。

ただし、こだわればこだわるほど、ワイングラスのお値段が上がってくるのも事実。

どうしても最高級のワイングラスを揃えなくてはと気負う必要はありません。

ワインは本来、楽しむために飲むものなのですから。

例えば、お好きなタイプの品種があれば、その品種に合ったグラスを買っておけば、グラン・クリュに限らずよく使えますし、色々なタイプのワインを試してみたいのであれば、スタンダードな万能型のワイングラスで、素材にこだわったものをまずは用意する、という手段もありますね。

素晴らしいグラン・クリュのワインを味わえる機会がありましたら、ぜひそれを生み出すテロワールや、産地で培われてきたワインづくりのこだわりに思いを馳せながら、グラスの助けも借りて、五感をフルに使って堪能してくださいね。


記事内容は記事作成時点の情報となります。

ソムリエ柁原めぐみ(Megumi Kajihara)
ソムリエ柁原めぐみ(Megumi Kajihara)

飲料のブランディングや広報を経験後、J.S.A認定ソムリエ資格を取得。現在は都内で酒類・飲料メーカーに勤務。
知識ゼロから一発合格を果たした経験と歴史・文化の知識を活かして、ワインをわかりやすく解説します。