モンラッシェとは、ブルゴーニュが誇る世界最高峰の白ワインのこと。その歴史や特徴について詳しくご紹介します。
POINT
モンラッシェとは
モンラッシェは、フランスの二大銘醸地のひとつであるブルゴーニュ地方の中でも、白ワインのグラン・クリュが集中するコート・ド・ボーヌ(Côte de Beaune)の南側に位置する、わずか約8haのグラン・クリュ、およびそこで生み出される白ワインを指します。
『三銃士』や『モンテ・クリスト伯』の著者として知られるフランスの小説家アレクサンドル・デュマが、「脱帽し、跪いて飲むべし」と称賛したという逸話も残されています。
Montrachetとはフランス語で「山(Mont)」+「禿(Rachet)」すなわち「禿げ山」を意味し、樹木が育たない土地であったため、こう呼ばれるようになったようです。
モンラッシェの名を冠するワインは全てシャルドネからつくられています。
モンラッシェの、赤い泥灰岩が混ざる石灰岩質の土壌は水捌けがよく、ぶどうの木の根が石灰岩の底土に根ざして地中のミネラルを吸い上げることができます。
また、南東向きの緩やかな斜面は、日当たりがよいため、ぶどうがよく成熟します。
2つの村にまたがるグラン・クリュ
モンラッシェの畑は、「ピュリニー・モンラッシェ村(Puligny-Montrachet)」と「シャサーニュ・モンラッシェ村(Chassagne-Montrachet)」の2つの村にまたがっています。
なお、この2村と、ピュリニーに隣接するムルソー(Meursault)を合わせた3村は「ブルゴーニュのコート・ド・ブラン」と呼ばれ、世界有数の高品質白ワインの産地として有名です。
下は、シャサーニュ・モンラッシェ村の生産者協同組合のテイスティングルームに飾られていた、2つの村の地図。上方に行くほど標高が高くなる地形です。
拡大すると…
緑の線で囲った部分が、モンラッシェの畑。赤い線が、2つの村の村境にあたります。右側(北東側)がピュリニー・モンラッシェ村、左側(南西側)がシャサーニュ・モンラッシェ村です。 モンラッシェの畑の方が、行政区画として村の境目が決められるよりも長い歴史を持っているためこのような現象が起きています。
なお、ピュリニー・モンラッシェ側のモンラッシェは「Montrachet」、シャサーニュ・モンラッシェ側のモンラッシェは「Le Montrachet(ル・モンラッシェ)」と呼ばれることが多いようです。
こちらが実際の村境です。
写真中央の道路にある継ぎ目のラインが、ちょうど村の境界線になっています。
※写真はシャサーニュ側からピュリニーの畑(左手側)と、後述するバタール・モンラッシェの畑(右手側)を撮影したものです。
モンラッシェの畑。奥に見えるのは、後述するシュバリエ・モンラッシェの畑(こちらもグラン・クリュ)です。
撮影時期は4月末ごろなので、発芽した芽の広がる、展葉(フイエゾン)の時期ですね。
モンラッシェのワインの特徴
味わいの特徴
モンラッシェのワインはシャルドネ種からつくられる辛口白ワインです。
バターやドライフルーツ、スパイスやハチミツに喩えられる香りに、凝縮された果実感とシャープな酸、豊富なミネラル感、長い余韻が完璧に調和し、洗練された最高峰の白ワインの味わいに仕上げられています。
土壌の違いにより、ピュリニー側のモンラッシェは、よりミネラリーで酸味豊かな引き締まった味わい。
シャサーニュ側のル・モンラッシェは、より果実味豊かでどっしりとした風格のある味わいになる傾向があるようです(なお、ピュリニーでは他の畑でもシャルドネしか作っていませんが、シャサーニュは粘土質と石灰岩がモザイク状に組み合わさった土壌をもち、ピノ・ノワールの生育にも適していることから、シャサーニュではシャルドネとピノ・ノワールの両方をほぼ半々の割合で栽培しています)。
ただし、「ミクロクリマ」と呼ばれるようにブルゴーニュのぶどう畑の土壌はたとえ同じ畑の中であっても多様に分化した特徴が表れるので、それぞれの生産者や銘柄によって異なる味わいを楽しむことができます。
モンラッシェの価格
中世にまでその歴史を遡ることができ、18世紀にはすでにその名声を轟かせていたモンラッシェは、栽培面積が限られており生産量が少ないために希少価値が高く、1本あたり数万円〜数十万円で販売されています。気軽に購入できる価格ではありませんが、特別なディナーやお祝いの席ではきっと喜ばれることでしょう。
5つのグランクリュとその特徴
実は、「モンラッシェ」の名前がつくグラン・クリュはあと4つ存在します。
- シュバリエ・モンラッシェ(Chevalier−Montrachet)
- ビアンヴニュ・バタール・モンラッシェ(Bienvenues-Bâtard-Montrachet)
- バタール・モンラッシェ(Bâtard-Montrachet)
- クリオ・バタール・モンラッシェ(Criots-Bâtard-Montrachet)
それぞれ、先程の地図でもう一度場所を確認してみましょう。
ご覧の通り、バタール・モンラッシェも2つの村にまたがって位置しています。
それぞれの畑の特徴は以下の通りです。
グラン・クリュ | 特徴 | 面積 |
シュバリエ・モンラッシェ | 最も斜面上方で、南東向きの急斜面。非常にミネラリーで繊細なワインが作られる。 | 7.47 ha |
ビアンヴニュ・バタール・モンラッシェ | 粘土質が多い土壌で、豊かな果実味がありながらも繊細さの感じられるワインを生み出す。 | 3.58ha |
バタール・モンラッシェ | 土壌は茶色の石灰岩で、5つのグラン・クリュの中で最も重厚で果実味が感じられる、豊満なスタイル。 | 11.73ha |
クリオ・バタール・モンラッシェ | 最も面積が小さく、小石混じりの石灰質土壌から複雑で繊細、エレガントなタイプのワインを生み出す。 | 1.57ha |
なお、シュバリエは「騎士」、ビアンヴニュは「ようこそ」、「バタール」は「庶子」、クリオは「泣く」という意味です。
なぜこんな不思議な名前がついているのかというと、次のような伝説が残っています。
昔、騎士(シュヴァリエ)である領主様と、妻以外の女性に男の子(庶子=バタール)が生まれた。
騎士には嫡男がいたものの、戦死してしまったため、この庶子を後継ぎとして城に迎えることにした。
それを村人たちが喜んで「ようこそ(ビアンヴィニュー)」と歓迎した。
その騒ぎに驚いた赤ん坊が「おぎゃあ、おぎゃあ」と泣いた…。
黄金丘陵(コート・ドール)―ブルゴーニュ・ワインの故郷(柴田書店、山本博著)」を元に、一部表現を変更しています 。
真偽のほどはわかりませんが、長い歴史があるからこそ、こんなお話が現在の地名となって残っているのも面白いですね。
モンラッシェのおすすめワイン
それでは最後に、モンラッシェのおすすめワインをご紹介したいと思います。
モンラッシェのグラン・クリュ
・オリヴィエ・ルフレーヴ モンラッシェ グラン・クリュ
(Olivier Leflaive Montrachet Grand Cru)
設立から200年以上の歴史をもつ、ピュリニー・モンラッシェの名門ドメーヌであり、権威あるワイン評価メディアである「デキャンター誌」からは「白ワインの世界10大生産者」の1位として称賛された“ルフレーヴ”をかつて率い、現在は独立して自らのドメーヌを経営するオリヴィエ・ルフレーヴ氏が手がけるモンラッシェです。
その味わいは、白い花や林檎、熟した洋梨を思わせる繊細な香りに、スパイス感やミネラル感が複雑さを加え、スムーズな飲み口ながら凝縮した味わいに、長く続く余韻が感じられ、モンラッシェらしさを体現した1本と言えるでしょう。
年間最大800本しか生産されない、大変希少なワインです。
・メゾン・ジョセフ・ドルーアン モンラッシェ マルキ・ド・ラギッシュ
(Maison Joseph Drouhin Montrachet Marquis de Laguiche)
メゾン・ジョゼフ・ドルーアンは、1880年の創立以来、130年以上も家族経営にこだわりながらテロワールに忠実なワインづくりを守る、ブルゴーニュを代表するワイナリーです。
2009年のモンラッシェは、「トロピカルフルーツ、パッションフルーツ、バター、スパイス、バニラを思わせる凝縮した香りで、ドラマティックな余韻を生み出す、終わりのない味わいの波が押し寄せる」…との魅力的なテイスティングコメントが与えられています。
白ワイン好き・シャルドネ好きであれば一度は試してみたい1本ではないでしょうか。
・おまけ――ドメーヌ・トマ・モレ シャサーニュ・モンラッシェ プルミエ・クリュ レ・マシュレ
(Domaine Thomas Morey Chassagne Montrachet 1er Cru Les Machelles)
上記のワインはいずれも歴史あるワインの造り手による素晴らしいモンラッシェですが、なかなか気軽に試すのは難しいので、グラン・クリュではありませんがモンラッシェ・ファミリーの1本をおすすめします。
ドメーヌ ・トマ・モレは、シャサーニュ村でもトップクラスのワイン生産者であったの父ベルナール・モレから2007年に畑を譲り受けたトマ・モレが設立したドメーヌ です。トマ・モレは2007年〜2009年までDRC(ドメーヌ・ド・ラ・ロマネ・コンティ)モンラッシェの栽培責任者を務めるなど、若いながらもその卓越した才能で注目されてきました。
シャサーニュ村のプルミエ・クリュ(1級畑)であるマシュレは、粘土質が多い土壌で、シャサーニュらしい果実味あふれる豊満なワインに仕上がっています。ピーチや林檎を思わせるフルーティな香りに、爽やかなハーブの香りが加わり、ふくよかな厚みのある味わいながら、モンラッシェ・ファミリーらしい酸味とミネラル感で全体としては芯の通ったバランスを感じさせる1本です。
以上、世界最高峰の白ワインといわれるモンラッシェ、およびモンラッシェ・ファミリーのワインについてご説明させていただきました。
今回はご紹介できませんでしたが、村名クラスのワインであればさらにお気軽に試せる銘柄もありますので、興味をもった方は、ぜひピュリニーとシャサーニュの飲み比べなどもしてみてはいかがでしょうか?
記事内容は記事作成時点の情報となります。
飲料のブランディングや広報を経験後、J.S.A認定ソムリエ資格を取得。現在は都内で酒類・飲料メーカーに勤務。
知識ゼロから一発合格を果たした経験と歴史・文化の知識を活かして、ワインをわかりやすく解説します。