今日は、なにノムノ?
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スペインワインの基礎知識。特徴や選び方、おすすめのワインも

スペインは、ワイン用ぶどう栽培面積世界第1位、ワイン生産量で第3位という、ワインの大生産国です。この記事では、バラエティ豊かなワインを生み出すスペインのワイン産地やその特徴、おすすめワインなどについてたっぷりご紹介します。

POINT

スペインのワインとは

スペインワインの概要

D.O.Pリオハやスパークリングワインのカヴァ、酒精強化ワインのシェリーなど、多彩なワインを生み出すスペイン。スペインのワインについてまず特筆すべきは、その規模の大きさです。

・スペインのワイン用ぶどう栽培面積は約960,758haで世界最大、EU内の全ワイン用ぶどう畑面積の約30%を占める広大な畑を有しています。
(OEMV〔スペインワイン市場調査機関〕2019年3月発表より)

・2018年のワイン生産量は約4,440万hLで、イタリア・フランスに次ぐ世界第3位です。
(OIV 2019年レポートより)

・ワインの輸出量は世界第1位、金額では第3位で、日本のワイン輸入元としてはチリ・フランス・イタリアに次ぎ第4位です。
(2019年時点)

生産量でも、海外での流通量という面でも世界的な存在感の大きい国です。

・気候はワイン栽培に適し、17の自治州全てでぶどうの栽培が行われています。

・原産地呼称(D.O.P)は合計96、D.O.P に登録されているぶどう畑は全体の半数以上の約58万haです。ただし生産量は半分をやや下回る約1,480万hLとなっています(D.O.Pワインは収量制限などがあるため、それ以外のワインと比べて畑あたりの生産量は少なくなります)。

・黒ぶどうと白ぶどうの栽培比率は52:48で、赤ワインの生産量の方がやや多い国です。

スペインワインの歴史

現在のスペインに当たる地は、フェニキア人、ギリシャ人、ローマ人、西ゴート族、アラブ人など様々な民族が支配してきました。ワインづくりも、このような多様な民族・文化が入り混じった歴史を反映しています。

この地にぶどう栽培が伝わったのは紀元前1100年ごろ。大西洋岸、現在のアンダルシア州カディスにやってきたフェニキア人がワインづくりを伝えました。

紀元前200年ごろにはローマ人によりワインづくりが奨励され、スペインのワインは広くローマ帝国内に流通していきました。

その後、ローマ帝国の衰退、ヴァンダル人や西ゴート族の支配を経て、711年にはイスラム教徒による支配が始まります。

1492年までイスラム教徒による支配の間、イスラム教ではお酒の飲用が禁じられているため、一部を除いてワインの生産は制限されました。

イスラム教徒による支配に対する、キリスト教徒によるイベリア半島の再征服運動=「レコンキスタ(国土回復運動)」は718年に始まり、徐々にイスラム勢力を後退させていきます。

レコンキスタは1492年のグラナダ陥落により完了しますが、この間、徐々にキリスト教徒の再植民とワインづくりの復興が進んでいきました。

グラナダ
現在のグラナダ・アルハンブラ宮殿

同じ1492年、カスティーリヤ王国(イベリア半島中央部に存在し、レコンキスタの中心となった王国)のイザベル1世の援助を受けたクリストファー・コロンブスがアメリカ大陸を「発見」。これにより、スペインの黄金時代といえる大航海時代が幕を開けました。

長い航海に出る船には、シェリーを始めとしたスペインワインが大量に積み込まれました。16世紀、マゼランが世界一周航海に出る際には、武器よりもワインの購入にかかった費用の方が多かったという逸話も残っています。

シェリー樽

19世紀後半、フランスのワインづくりに大打撃を与えた、ぶどう栽培の大敵である害虫フィロキセラの大量発生が起こります。これは、スペイン北部にフランスからワイン生産に携わる人材や技術が渡ってくるきっかけとなり、スペインがヨーロッパのワイン供給地となり、その品質も大きく向上することになりました。

20世紀は、スペインワインにとっては試練の時期でした。第一次世界大戦、スペイン内戦、第二次世界大戦など混乱が続いてワインの生産は大きく落ち込みました。

1975年の独裁制終焉と立憲君主制への復帰、1986年のEU加盟など、政治の安定に伴い、ワインづくりの本格的な復興、量から質重視への転換、国際市場への返り咲きが進みました。

恵まれた気候条件と独自のワインづくりの発展の歴史、そして近年の積極的な投資や新世代のワイン生産者たちの努力により、スペインはリーズナブルかつ高品質なワインの産地として存在感を増しています。

スペインワインの特徴

スペインの主なぶどう品種

ブドウのイメージ

スペインワインの特徴は、スペイン固有のぶどう品種が多いことです。ここでは、主要なぶどう品種についてご紹介します。

黒ぶどう①テンプラニーリョ(Tempranillo)

スペインのワイン用ぶどう栽培面積の約2割を占める、スペインを代表するぶどう品種です。原産地はスペインのリオハ。品種名は「早熟」を意味し、冷涼なスペイン北部地域でも成熟します。

プルーンやブラックベリーなど黒系の果実や鉄を思わせる香りが非常に豊かで、強い果実味滑らかなタンニンを特徴とします。

スペインの各地で栽培されており、地域によって、呼び方が異なります。

●テンプラニーリョのシノニムリスト

シノニム地域
ティント フィノ(Tinto Fino),
ティント デル パイス(Tinto del País)
リベラ デル ドゥエロ(Ribera del Douero)
センシベル(Cencibel)ラ・マンチャ(La Mancha)
ウル デ リェブレ(Ull de Llebre)カタルーニャ州(Cataluña)
ティンタ・デ・トロ(Tinta de Toro)トロ(Toro)
ティンタ・デ・マドリッド(Tinta de Madrid)マドリッド(Madrid)

黒ぶどう②ガルナッチャ・ティンタ (Garnacha Tinta)

スペイン北東部のアラゴン州原産。フランスでも生産量の多い「グルナッシュ」と同一品種です。特徴はその丈夫さ! 厳しい生育条件でも栽培しやすく、病気にもなりにくい品種です。

香りも味わいもスイートな印象が強く、プルーンやいちじくのような甘い果実香、酸味が控えめで果実の甘さがしっかりと感じられます。アルコール度数も比較的高くなりやすい品種です。

黒ぶどう③ボバル(Bobal)

地中海沿岸南部のバレンシア州で主に栽培されている品種です。主にバルクワイン用に使用されてきましたが、近年は良質なワインづくりが目指されています。

白ぶどう①アイレン(Airén)

スペインで最大の栽培面積を占め、スペインのワイン用白ぶどうの半数がこの品種です。主要栽培地はカスティーリャ・ラ・マンチャです。

白ぶどう②マカベオ(Macabeo)

別名ビウラ(Viura)。スペインの高品質スパークリングワイン、カヴァ(Cava)をつくる三大品種のひとつとして知られています。スティルワインにも用いられ、酸味が強くフレッシュで軽やか、かつ華やかな香りを特徴とします。

白ぶどう③ベルデホ(Veldejo)

D.O.ルエダを中心に、高級辛口白ワインに仕上げられるぶどう。フレッシュで繊細ながら、香り高くコクがある味わいが特徴で、魚介類との相性が抜群です。

この他にも各地域で特色あるワインを生み出す品種がありますので、そちらは主な産地のパートでご紹介いたします。

スペインワインの分類

スペインで全国的なワイン法が制定されたのは1932年のこと。スペインワインの分類は、実は非常に複雑です。他の旧世界のワイン生産国と同様、スペインも、各産地の特色とブランドを守るため、厳格な分類のルールが定められています。

<第1段階>

まず、スペインのワインは大きく、「原産地呼称保護(D.O.P. ※1)の対象になるもの」、「地理的表示保護(I.G.P ※2)の対象になるもの」、そしてそれ以外のワイン(Vino)に分かれます。

ここではざっくりと、D.O.P.は高級ワインとして最も厳しい基準が定められているもの、I.G.P.は地域名を名乗れるテーブルワインと理解していただければと思います。

※1 D.O.P.=Denominacion de Origen Protegida
※2 I.G.P.=Indicacion Geografica Protegida
EU共通のワイン法による呼称で、国ごとに、各クラスに当たるワイン分類が存在します。

スペインのワイン法では、I.G.PワインはVino de la Tierra(ビノ・デ・ラ・ティエラ)と呼ばれ、42の生産地域で造られています。

<第2段階>

スペインのワイン分類の特徴は、最高級のD.O.Pワインがさらに細分化されている点です。

下から順番にご紹介します。

V.C.
Vino de Calidad con Indicación Geográfica(ビノ・デ・カリダ・コン・インディカシオン・へオグラフィカ)

2003年に新設された分類。地域名がついた高級ワインで、現在7地域が認可されています。このカテゴリーに認可されて5年以上の実績を積むと、次のカテゴリーへの昇格を申請することができます。

D.O.
Denominación de Origen(デノミナシオン・デ・オリヘン)

スペインの高級ワインの中核となっている格付けで、現在68の地域が認定されています。D.O.ワインはラベルに原産地名+D.O.表記が必要とされますが、例外が2つあります。ひとつはスパークリングワインのカヴァ、もうひとつはシェリーで、それぞれ“Cava”“Sherry(もしくはJerez)”のみ表記すればよいことになっています。このカテゴリーに認可されて10年以上の実績を積むと、さらに次のカテゴリーへの昇格を申請できます。

・D.O.Ca.
Denominación de Origen Calificada(デノミナシオン・デ・オリヘン・カリフィカーダ)

「特選原産地呼称ワイン」と呼ばれ、D.O.ワインの中から特に優れていると認められたエリアに与えられる、最高峰の格付けです。現在認可されているエリアは、リオハ(1991年認定)とプリオラート(2009年認定)の2つのみという、非常に厳格な昇格基準が設けられています。

・V.P.
Vino de Pago(ビノ・デ・パゴ)

パゴはスペイン語でぶどう畑のこと。「単一ぶどう畑限定ワイン」と呼ばれ、地域ではなく、際立った特徴を持つ単一ぶどう畑で栽培されたぶどう畑のみからつくられるワインに与えられる呼称です。2003年に新設されて以来、実際に認定された畑が長らくなかったものの、2019年にとうとう19の畑が認定されました(現在認定されている畑はアラゴン州、カスティーリャ・ラ・マンチャ州、カスティーリャ・イ・レオン州、ナヴァラ州、バレンシア州のいずれかに存在)。なお、もしその畑がD.O.Ca地域と重複する場合は、Vino de Pago Calificado(ビノ・デ・パゴ・カリフィカード)と名乗ることができます。こちらはまだ認定されている畑はありません。

…かなり複雑な分類ですが、章の冒頭にカテゴリーのランクを図示してありますので、参考になさってくださいね。

スペインワインの熟成規定

さらに、D.O.Pワインは次のような熟成条件を満たした場合に、ラベルに表示することができます。

ソムリエ試験を受験しない限りは細かい期間を覚えなくても大丈夫ですので、クリアランサ→レゼルバ→グラン・レゼルバの順に、より長い熟成期間を経たワインであるとわかればOKです!

表示規定
Crianza(クリアンサ) ●赤ワイン
最低24カ月(うち最低6カ月は樽熟成)
●白・ロゼワイン
最低18カ月(うち最低6カ月は樽熟成) 
Reserva(レセルバ) ●赤ワイン
最低36カ月(うち最低12カ月は樽熟成)
●白・ロゼワイン
最低24カ月(うち最低6カ月は樽熟成)
Gran Reserva(グラン・レセルバ) ●赤ワイン
最低60カ月(うち最低18カ月は樽熟成)
●白・ロゼワイン
最低48カ月(うち最低6カ月は樽熟成)

※リオハ、リベラ・デル・ドゥエロのワインにはさらに厳しい独自の熟成規定があります。
※一部の地域には、Noble(18ヶ月以上)、Añejo(24カ月以上)、Viejo(36カ月以上&酸化熟成)という熟成規定があります。

スペイン流のワインの楽しみ方

スペインワインの魅力は、高品質でコスパが良いこと! スペインのリーズナブルで美味しいテーブルワインの楽しみ方をいくつかご紹介します。

①Tinto de Verano(ティント・デ・ヴェラーノ)

ティント・デ・ヴェラーノ

「夏の赤ワイン」を意味するこの飲み方はとてもシンプル。赤のテーブルワインを、氷と炭酸飲料で割るだけ! 炭酸飲料はお好みのものを選べばOKですが、スペインでは甘すぎないレモネードで割るのが人気だそう。

②Sangria(サングリア)

サングリア

夏の定番サングリアは、もうひと手間かけて楽しみたい方にぴったりです。赤ワインと、スライスしたフルーツ(オレンジなどの柑橘類やいちご、チェリーなど)、お好みで砂糖、シナモン、風味づけにブランデーやリキュールなどを全部一緒に大きな容器に入れて、冷蔵庫で一晩よく冷やして楽しみましょう。ひと工夫としては、ベースになるワインの香りに合わせてフルーツを選ぶと、ワインの個性もより楽しむことが出来て良いでしょう◎

③Calimocho(カリモーチョ)

カリモーチョ

もっとパンチのある味がお好きな方は、スペインのワインカクテル「カリモーチョ」もぜひお試しを! 赤ワインをコーラで割る簡単カクテルです。ワインは、しっかりとした果実味のあるガルナッチャを選ぶのをおすすめします。

スペインワインの主な産地

スペインの地図

それでは、スペインのワイン産地について、まずは代表的なスティルワインの産地を抜粋してご紹介します。

リオハ(Rioja) D.O.Ca

スペインを代表するワイン産地。名前の由来は、この産地を流れているオハ川から。地理的な好条件(南北を山脈に挟まれるため、夏の熱波や冷たい北西風が遮られ、穏やかな気候)や、フランスのフィロキセラ禍の後、多くのボルドー出身者がこの地にワイン造りのために赴いたという歴史的な出来事も重なり、高品質なワインづくりが行われてきました。

代表品種はテンプラニーリョで、ボルドーワインを思わせる、複数品種をブレンドした濃厚な赤ワインがよく知られています。

アメリカンオークを用いた小樽熟成が伝統となっており、白ワインも樽熟成を行います(赤ワインと白ワインの生産量の比率はおよそ9:1)。

オーク樽

リオハ・アルタ(南西側)、リオハ・オリエンタル(南東側)、リオハ・アラべサ(オハ川の北側)という3つのサブゾーンに分かれ、それぞれ特徴あるワインづくりを行っています。

リアスバイシャス(Rías Baixas) D.O.

スペイン北西部ガリシア州の、大西洋岸地域。海洋性気候を好む、白ぶどうのアルバリーニョ(栽培ぶどう全体の96%)からつくられる、柑橘類を思わせる爽やかな風味と、華やかな香りをもった白ワインが有名な産地。スペイン最高の白ワイン産地とも言われます。

海風を受けて作られたためヨードの香りをもつと言われており、魚介類との相性が良く「海のワイン」と称されています。

プリオラート(Priorato) D.O.Ca

スペイン北東部のカタルーニャ州にある、スペインを代表する高級ワイン産地です。長らくリオハが唯一のD.O.Caでしたが、2009年に2つめのD.O.Caに認定されました。

12世紀にスカラ・デイ修道院の修道士が開拓した産地で、地名の語源も修道院の領土や修道長を指す「プリオラ」に由来すると言われています。山間部の急斜面につくたれた階段テラス状の畑が特徴ですが、耕作が大変なため、近年は耕作放棄地となっていました。1980年代からは、新しい生産者が地元品種を活かしつつも外来品種や最新技術の活用を始めたことで、一気に品質向上が進みました。

リベラ・デル・デュエロ(Ribera del Douero) D.O.

スペイン北部カスティーリャ・イ・レオン州にある、ドゥエロ川沿いの細長い産地です。標高が高くて日照量が多く、夏の暑さも冬の寒さも厳しい土地で、骨格のしっかりしたワインを生み出します。

赤とロゼのみがD.O.表記可能で、ぶどうはテンプラニーリョ(現地ではTinto FinoもしくはTinta del País)がメインです。

ルエダ(Rueda) D.O.

スペインを代表する白ワインの産地で、ドゥエロ川の左岸に位置します。主要品種はベルデホ(Verdejo)で、フレッシュで香り高く、コクのある辛口白ワインで知られます。国際品種であるソーヴィニヨン・ブラン(Sauvignon Blanc)でつくる白ワインも高く評価されています。

ラ・マンチャ(La Mancha) D.O.

ラマンチャのぶどう畑

カスティーリャ・ラ・マンチャ州にある、単一原産地呼称としては世界最大面積(約16万ha)を誇る、大生産地です。「マンチャ」はアラビア語で「水のない土地」を意味し、メセタと呼ばれる台地に広がる、乾燥した平原にあるぶどう栽培地です。

極寒の冬と酷暑の夏という極端な大陸性気候で、その厳しい気候に耐えうるアイレン(Airén)という白ぶどうがメインに栽培されています。長い間、低価格ワインやブランデー原酒など量を重視した生産が推進されてきた産地でしたが、20世紀末から生産体制の立て直しが進められ、アイレンやセンシベル(Cencibel、=テンプラニーリョ)からつくられる良質なワインの評価が高まっています。

スペインの特徴的なワイン

スペインはスティルワインだけでなく、スパークリングワインおよび酒精強化ワインの有名産地でもあります。

シャンパンと製法は同じ! スパークリングワインのカヴァ

スパークリングワインカヴァ

スペインのスパークリングワインといえば、カヴァ(Cava)

スペイン北東部カタルーニャ州のペネデスD.O.を中心に、シャンパーニュと同じトラディショナル製法(瓶内二次発酵)でつくられる高品質スパークリング・ワインです。

シャンパーニュ(年間総生産量約3億本)、プロセッコ(約5億本)に次ぐ生産量(約2億5千万)で、世界三大スパークリングワインとして知られています。

Cavaはカタルーニャ語で「洞窟」を意味し、かつては熟成に洞窟を使っていたことからこのような名前がつきました。

カヴァの樽

例外的に、点在する複数のエリアをまたがって同じD.O.を名乗ることができる非地名原産地呼称です。生産量の95%がペネデスを中心としたカタルーニャ地方で作られており、その中でもほとんどがサン・サドゥルニ・デ・ノヤという地域で作られています。

カヴァの原料ぶどう品種

カヴァは主に、マカベオ(Macabeo)、パレリャーダ(Parellada)、チャレッロ(Xarel·lo)の3品種から作られています。マカベオはフルーティーさを、パレリャーダは花のような香り、チャレッロは酸味を特徴とします。

※この主要3品種以外にも、シャルドネやピノノワール、ロゼタイプではモナストレルやガルナッチャの使用も認められています。

酒精強化ワインのシェリー

シェリー

スペインのワインを語る上で忘れてはならないのが、スペイン南部、アンダルシア州で作られる酒精強化ワイン、シェリー(Sherry)。

白ワインにスピリッツ(蒸留酒)を加えて発酵を止めたあと、樽熟成させ、アルコール度数18%(普通のワインは大体10~14%)以上に仕上げたものです。

これは、大航海時代、長い航海期間中にワインが劣化しないための工夫として考案されました。

シェリー樽2

ヘレス・デ・ラ・フロンテラ、サンルーカル・デ・バラメーダ、エル・プエルト・デ・サンタ・マリアという3つの町で熟成されたものだけが、シェリーを名乗ることができます。

実はシェリーという呼び方は英語名で、スペイン語ではへレス、フランス語ではケレスと呼ばれます。711年~1264年にはこの地域はアラブ人の支配下にあり、現在のへレスの地域はシェリシュと呼ばれていました。この名前が英語・スペイン語・フランス語にそれぞれ変化したので、現在でも呼び名が異なるのです。

シェリーの原料ぶどう品種と味わいのタイプ

シェリーは、パロミノ(Palomino)とペドロ・ヒメネス(Pedro Ximénez)、モスカテル(Moscatel)という3つの品種からつくられます。パロミノは辛口ワインに用いられ、シェリー用ぶどう全体の95%を占めています。ぶどうはブレンドされず、単一で使われます。

シェリーは醸造の方法によって、辛口から極甘口まで非常に幅広いタイプに分かれるのが特徴です。主要なものは「フィノ(アルコール度数15%の軽めの辛口、色の薄いタイプ)」、「オロロソ(アルコール度数17%、辛口で、酸化熟成されて琥珀色~マホガニー色のタイプ)」、「アモンティリャード(フィノとオロロソの中間タイプ。アルコール度数16%、琥珀色でナッツのような風味がある)」、また、数は少ないものの、「ペドロ・ヒメネス」モスカテル」というそれぞれの品種のぶどうから作られた極甘口タイプがあります。

スペインワインの選び方

スペインワインと一口に言っても、ここまでご覧いただいたように非常に多くの産地があり、独特の個性があります。

では、実際にスペインワインを飲むときは、どのようなポイントから選べばよいのでしょうか?

①産地から選ぶ

スペインには特色のあるワイン産地が沢山ありますが、まずはこの記事でご紹介したような主要産地の特徴を読んでみて、興味を覚えたもの、ご自分の好みに合いそうなものを選んで試してみるのもおすすめです。

②シーンで選ぶ

とはいえ、何かヒントがないと選ぶのは難しいですよね。

例えば、お祝いや特別な日のディナーには、スペインの最高峰ワインであるリオハやプリオラートのワインを選んだり、長期熟成されたカヴァを選んでみてはいかがでしょうか。逆に、もっと気軽に楽しみたい時には、リーズナブルなラ・マンチャのワインがおすすめです。

③料理と合わせる

一番おすすめしたいのは、料理と合わせる方法です。

食文化がとても豊かなスペイン。沿岸部は魚介、内陸部は地域によって牛、豚、鶏などを使った様々な郷土料理が存在し、それぞれの地域でその料理に合ったワインづくりが行われています。

・魚介のアヒージョ×アルバリーニョ(リアス・バイシャス)

魚介のアヒージョ

魚介類を使った料理に合わせたいのは、フレッシュで豊かな酸味をもつ、リアス・バイシャスのアルバリーニョです。香り高いワインなので、ニンニクをたっぷり使ったアヒージョとのバランスがよく、タコやエビと合わせると特に相性ばっちりです。

・パエリア×バレンシアの赤ワイン

肉のパエリヤ

パエリアというと魚介のイメージも強いですが、発祥地であるバレンシアのパエリアは鶏肉やウサギを使ったものが有名。

地元バレンシアD.O.のモナストレルやガルナッチャ、ウティエル・レケーナD.O.のボバルで作られたミディアム~フルボディの赤ワインを合わせていただきましょう!

ハモン・イベリコ(イベリコ豚のハム)×ティンタ・デ・トロ(トロ)もしくはベルデホ(ルエダ)

ハモン・セラーノ

主にイベリア半島西部で作られるイベリコ豚のハムには、赤ワインも白ワインもよく合います。

カスティーリヤ・イ・レオン州のトロで作られるティンタ・デ・トロ(=テンプラニーリョ)の比較的若いワインや、同州のルエダで作られるベルデホ種のフレッシュな白ワインと合わせてどうぞ。

・チョコレート×シェリー

シェリーとチョコレートケーキ

チョコレートを使ったデザートと合わせてシェリーはいかがでしょうか? チョコレート、シェリーそれぞれ味わいのタイプが幅広いので、色々な組み合わせが楽しめます!

個人的には、甘党なのでミルクチョコレートに極甘口のペドロ・ヒメネスを合わると、これ以上ないほど贅沢な気分になれます。甘いもの好きの方は、いかがでしょうか。

おすすめのスペインワイン

最後に、スペインワインのおすすめを赤・白・カヴァ・シェリー、それぞれご紹介します。

<赤ワインのおすすめ>

・CVNE クネ インペリアル グラン・レゼルバ(9,000円前後)

リオハD.O.Caの名門ワイナリーの作る、テンプラニーリョをメインとした高品質ワイン。豊かな果実味と、アメリカンオークとフレンチオークの樽熟成によるロースト香、緻密なタンニン、長い余韻をもつフルボディの辛口赤ワインです。

インペリアルは、特に良質なヴィンテージにのみつくられます。

・オノロ ベラ ガルナッチャ(1,600円前後)

スペインらしい、コストパフォーマンスのよいガルナッチャの赤ワイン。プルーンやブルーベリーを思わせるフルーティな香りに、少し黒胡椒のニュアンスもありお肉料理によく合うワインです。

<白ワインのおすすめ>

・ビオンタ アルバリーニョ(2,400円前後)

レモンや青りんごを思わせる爽やかな香りに、キリッとした酸味、たっぷりのミネラル感が特徴の、アルバリーニョ種のワイン。魚介料理にぴったりの1本です。

<カヴァのおすすめ>

リョパール ブリュット レセルバ(1,400円前後)

オーガニックカヴァの名門・リョパールのスタンダードキュベ。フレッシュで繊細な香りと、18カ月以上の瓶内熟成によるきめ細かい泡立ちが心地よい、おすすめのカヴァです。

フレシネ コルドンネグロ ハーフ(800円前後)

販売量No. 1のカヴァ生産者、フレシネのスタンダードブランドであるコルドンネグロ。ザ・カヴァともいうべき味わいはもちろんですが、ハーフボトルなので、大人数で集まりにくい昨今、おひとりやご家族で気軽にカヴァを楽しみたいときにもおすすめです。

<シェリーのおすすめ>

・マンサニーリャ ラ・ギータ(1,500円前後

「マンサリーニャ」とは、サンルーカル・デ・バラメーダで熟成されるフィノ(辛口)タイプのシェリーで、独特の塩気が特徴です。マンサリーニャのトップメーカーであるホセ・エステベスが手掛けるラ・ギータは、アルコール度がやや低めなので、食前酒としても食中酒としてもおすすめです。

・アニャーダ ペドロ ヒメネス ハーフボトル(2,500円前後)

ペドロヒメネス100%の極甘口ワイン。干しブドウ、プルーン、キャラメル、チョコレートなどを思わせる凝縮した甘い香りが心地よく、味わいは甘さの中にも少し酸味があり非常になめらかです。デザートワインとしてどうぞ。


独特の歴史と多様な気候・地理によりバラエティ豊かなワインを生み出す、スペイン。種類が多すぎてなかなか選べない!  と迷われている方もいらっしゃることと思います。今回ご紹介した産地や銘柄の情報がワイン選びのお役に立てれば幸いです。

記事内ではスペイン料理との組み合わせをご紹介しましたが、幅広い料理と合わせやすいワインが多いので、ぜひ、色々なシーンで楽しんでみてくださいね!

記事内容は記事作成時点の情報となります。

ソムリエ柁原めぐみ(Megumi Kajihara)
ソムリエ柁原めぐみ(Megumi Kajihara)

飲料のブランディングや広報を経験後、J.S.A認定ソムリエ資格を取得。現在は都内で酒類・飲料メーカーに勤務。
知識ゼロから一発合格を果たした経験と歴史・文化の知識を活かして、ワインをわかりやすく解説します。