チリワインは何故安くて人気なのでしょうか? スーパーやコンビニでも多く見かけるチリワイン。その魅力に迫ります。
POINT
チリワインが安くて美味しい理由
安価なチリワインが数多く流通しているのには、大きく3つの理由があります。
①関税
②低コストでの生産
③地理的なメリット
①関税については、2007年に日本とチリの間で結ばれた経済連携協定(EPA)によるものです。これはワインの関税を段階的に撤廃するもので、2019年4月1日の時点で、関税が完全に撤廃されました。EPA発効時は国別の日本へのワイン輸入量はチリが第3位でしたが、2018年にはついにフランス、イタリアを抜き1位となりました。割合で見ると8.8%から31.0%まで上昇しています。
②低コストで生産ができる理由は、大規模生産と人件費が低いため。チリのワイン産業は鉱山富豪がスポンサーになっていることが多く、最新の醸造機器を導入していることや、もともと土地代が安いことに加え、大規模な畑を所有しているワイナリーが多く、人件費がかかりにくいことが特徴です。
③地理的なメリットですが、チリは、東にはアンデス山脈、西には太平洋があり、ブドウ栽培に有利な条件が揃っている国です。その条件とは、「ブドウ生育期には雨が少なく乾燥している」「昼夜の寒暖差が大きい(20℃近くの差)」「地中海性気候」「豊富な日照量」「涼しい海風やアンデスの山々から吹き下す風(風通しの良さはブドウ栽培において重要)」などです。
チリワインのブドウ品種
チリワインで覚えておきたい有名なブドウ品種を4つと、チリならではのブドウ品種を2つご紹介します。ちなみに、チリの栽培面積では約75%が赤ワイン用のブドウ品種です。
チリワインで覚えておきたい有名ブドウ品種4種
●カベルネ・ソーヴィニヨン
チリ全体の約30%を占めている赤ワイン用ブドウ品種です。
●メルロー
赤ワイン用ブドウ品種ではカベルネ・ソーヴィニヨンに次ぐ栽培面積の広さです。
●ソーヴィニヨン・ブラン
白ワイン用ブドウ品種では最も多く栽培されています。チリの白ワインはもともとトロピカルフルーツの香りのものが多かったのですが、より涼しい畑で栽培する生産者が増え、グレープフルーツ系の香りのするものが増えています。
●シャルドネ
白ワインではソーヴィニヨン・ブランに次ぐ栽培面積の広さです。
チリならではのブドウ品種2種
●カルメネール
チリの赤ワインで最も重要なブドウ品種です。フランスのボルドーから19世紀半ばにカベルネ・ソーヴィニヨンやメルローと共に持ち込まれました。ボルドーでは栽培がほぼ途絶えてしまった品種ですが、天候に恵まれたチリで生き延びることができました。しかし、これがカルメネールであると判明したのは1994年とごく最近のことでした。それまではメルローと間違われていたという歴史があります。
●パイス
チリで最も歴史のあるブドウ品種です。16世紀半ばにスペインのカトリック伝道者がこのブドウを植えたことが始まりです。21世紀に入ってからは徐々に栽培面積が減少してきていますが、一方で、チリ南部の産地では零細なパイスの栽培農家が多く、彼らの経営を守るために行政がいくつかのワイナリーにパイスの再生策を委嘱しました。その結果、高品質なスパークリングワインや軽快な赤ワインが誕生しています。
チリワインの主な産地
チリは南北に細長い国で、東をアンデス山脈、太平洋岸に海岸山脈が走っています。チリのブドウ栽培地域は大きく分けると、北部、中央部、南部の3つに分けられます。ちなみに南部では生産量が10%ほどで多くは国内消費用となり、国外輸出用では中央部がメインの産地となっています。
中央部の重要な栽培地域をひとつご紹介します。
ブドウ栽培の中心地、セントラル・ヴァレー
チリのブドウ栽培はこのセントラル・ヴァレーで始まりました。伝統的にはフランスのボルドー品種やパイスが栽培されてきましたが、最近はテロワール(気候風土)の特徴に合わせた新品種の栽培が盛んです。
降雨量は年間で300mmほどでとても乾燥しています。そのため灌漑(人工的に水を供給すること)が必要な地域でもあります。
ちなみにセントラル・ヴァレー内には5つの産地がありますが、その中でもマイポ・ヴァレーという産地は高級ワインの産地としても有名です。
二次的産地表示
さらにチリの産地の分類は東西にも分けられます。2011年には従来の原産地呼称表記に付記する形で、二次的な産地表示ができるようになりました。産地を地図上で垂直に分類したもので、西から東へ3つに分かれます。
Costa(コスタ) ―― 海岸に面したエリア
海岸を流れるフンボルト寒流による冷たい海と海風の影響を大きく受けます。この地域のブドウから生まれるワインはミネラルや塩味、シャープな酸味を特徴とします。
Entre Cordilleras(エントレ・コルディリェラス) ―― 海岸山脈とアンデス山脈の間のエリア
「2つの山脈の間」という意味をもつエリアです。海岸山脈とアンデス山脈の間に広がるこの地域のブドウは、チリワイン生産の約60%を占めています。
Andes(アンデス) ―― アンデス山脈の斜面に広がるエリア
早朝にアンデス山中で形成された冷気が麓へと吹き下ろすため、この地域は涼しく風通しが良いです。さらに日中は強い日差しを受ける斜面も日が落ちると急激に冷え込むため、昼夜の寒暖差が極めて大きいエリアです。
プレミアムチリワイン
さて、関税や低コストでのワイン生産のお話を解説しますと、チリワイン=安くてコスパ良しというイメージを持たれるかもしれません。
確かに、2015年にチリワインの輸入量がフランスワインを逆転し1位になり、量販店向けのでその力を発揮しています。特に小売価格1000円未満のボリュームゾーンでは確固たる地位を築きました。
消費者が高価帯のチリワインに馴染みが無いことや、とりわけカベルネ・ソーヴィニヨンを主体とした赤ワインが果実味と樽の香りの強い重厚なイメージが強いこともあり、高価格帯のワインはやや苦戦していると言えるでしょう。しかし、世界の潮流として食文化がライトかつヘルシーな方向へとシフトしていることもあり、酸味やミネラル感、エレガンスに重きを置いたワインメイキングへと変わりつつあります。
是非とも知って頂きたい、代表的なプレミアムチリワインを2つご紹介します。
アルマヴィーヴァ
チリのトップワインメーカーのであるコンチャ・イ・トロとボルドーの五大シャトーの一角であるシャトー・ムートン・ロートシルトのコラボレーションにより生まれたワインです。1998年に初ヴィンテージが発表されると瞬く間に人気を博し、「チリのオーパスワン」と呼ばれるほど世界中から称賛を浴びています。
ブドウ品種はカベルネ・ソーヴィニョンを主体としたボルドーブレンドに、カルメネールを20%ほど用いて造られます。
モンテス・アルファ・エム
プレミアムチリワインの先駆けとも呼べる、モンテス社のアルファシリーズの最上位にあたるワインです。
2013年に、モンテス社の設立25周年を記念してブラインドテイスティングが開かれました。世界の名だたるワインと自社ワインを競わせるという趣旨のもので、著名なワイン評論家やソムリエが参加したこのブラインドテイスティングでは、シャトー・ラフィット・ロートシルト2004年に次ぐ2位にモンテス・アルファ・エム2004年がランクインしました。5位のオーパスワンを抑えての素晴らしい評価を獲得したのです。1本1万円台のモンテス・アルファ・エムが数倍の価格が付けられるワインと互角に渡り合い、注目を集めたということです。
こちらもカベルネ・ソーヴィニヨンを主体に、ボルドー品種をブレンドして造られます。
おさらい
それでは最後にこの記事のおさらいです。
●日本での海外産の国別ワイン輸入量1位はチリ
●関税がかからないことや低コストでの生産により、日本では低価格帯のものが多く流通
●国際的な品種を多く栽培し、カルメネールやパイスなどチリならではのブドウ品種もある
●1万円台の高価格帯のプレミアムワインも今後要注目
チリワインについての大まかなイメージを掴んで頂けたでしょうか。この記事をお読み頂いた方に、ワインを楽しむきっかけとしていただければいです。
■参考文献
日本ソムリエ協会教本
記事内容は記事作成時点の情報となります。
フランス料理店勤務時にソムリエに憧れ勉強を始め、23歳で日本ソムリエ協会認定ソムリエを取得。都内のミシュラン星付きのフランス料理店やビストロを経て現在中目黒B.B.S.DINING.にてソムリエとして勤務。