ソーヴィニヨン・ブランとは、白ワイン用のブドウ品種の名前です。
レモンやハーブを思わせる香りに、フレッシュな酸味は、新緑の季節の清々しい気候にピッタリ! キリッと冷やして夏にいただくのがおすすめです。また、ソーヴィニヨン・ブランの香りは汗や猫のおしっこに例えられるくらい特徴的な香りです。
今回はそんな爽やかさが人気の白ワイン「ソーヴィニヨン・ブラン」について詳しくご紹介します。
POINT
ソーヴィニヨン・ブランとは
白ワイン用のぶどう品種の中では、【シャルドネ】【リースリング】【ソーヴィニヨン・ブラン】が世界中でもっとも知名度が高い三種です。
その中でもソーヴィニヨン・ブランは各国で栽培されていて、爽やかな辛口タイプの味わいが多い品種です。フレッシュな柑橘系やハーブの香りをしっかりと感じることのできる「清涼感溢れるワイン」として人気を誇っています。また、1,000円台からと手頃な価格のワインも多いため、気軽に色々な国のソーヴィニヨン・ブランを試すことができるのも魅力の一つなのではないでしょうか。
ソーヴィニヨン・ブランの産地
フランス
・ロワール
ロワール渓谷地方にあるサントルニヴェルネ地区。ロワール川右岸で造られる「プイイ・フュメ」と、対岸に位置する左岸で造られる「サンセール」の2つが有名で、小さな牡蠣の殻の化石を含むキンメリジャン(シャブリで有名な土壌と同じ)、粘土石灰質、火打石などの土壌が活かされたミネラル感とスモーキーのニュアンスを味わうことができます。このスモーキーさこそがプイイ・フュメ(フランス語でフュメ=煙)の名前の由来と言われています。またソーヴィニヨン・ブランのことを「ブラン・フュメ」とも呼びます。
・ボルドー
ボルドー(メドック)格付けシャトーの赤ワインが有名なボルドー地方ですが、実はここは隠れた白ワインの名産地なのです。ソーヴィニヨン・ブランとセミヨン、主にこの2つの品種を使用したボルドー・ブラン(ブランとはフランス語で白という意味)を生産しています。味わいは爽やかなタイプのものから、オーク樽で熟成させたコクや深みがあるタイプのものまで様々です。また、ソーテルヌ&バルサック地区では貴腐ブドウから造られる極上の高級甘口貴腐ワインがあります。セミヨンを中心にソーヴィニヨン・ブランがブレンドされ、有名なものは「シャトー・ディケム」で、世界最高峰の貴腐ワインとして知られています。
ニュージーランド
ニュージーランドでは生産量の7割以上がソーヴィニヨン・ブランで、特に南島の北端にある「マールボロ」が有名です。熟した南国フルーツの香りがするマールボロのソーヴィニヨン・ブランは、世界に誇る国際品種と言われています。そして意外ですが、ニュージーランドには日本人の醸造家も増えています。美しい桜のデザインで有名な「キムラ・セラーズ」は、ホテル勤務からワイン造りの道に転身した木村滋久氏が2009年に設立し、家族のみで運営しています。日本人らしい繊細な味わいを感じることができ、日本でも大人気のワインです。
その他チリ、オーストラリア、アメリカ、イタリアなど。日本でもソーヴィニヨン・ブランは栽培されており、冷涼な気候の長野県や北海道などの地域で急増中です。
ソーヴィニヨン・ブランの歴史
ソーヴィニヨン・ブランの原産地はフランスボルドー地方とされていますが、原産地とは違う国で有名になっている珍しい品種です。
アメリカ カルフォルニア・ワインの父と呼ばれるロバート・モンダヴィ氏が、フランスロワール地方で「ブラン・フュメ」と呼ばれる辛口ソーヴィニヨン・ブランをヒントに【フュメ・ブラン】とネーミングしたワインを生み出して大成功をおさめました。これがきっかけとなり世界中にソーヴィニヨン・ブランの存在が知れ渡り、これまでブレンド用だったソーヴィニヨン・ブランが、ソーヴィニヨン・ブラン100%の単一品種で生産されるスタイルに変化していったのです。
また、ニュージーランドでは1980年代、南島のマールボロで造られた、パッションフルーツやトロピカルフルーツの熟した香り、そしてハーブの清涼感あふれる香りが調和された、これまでにない「新しいソーヴィニヨン・ブランのスタイル」が大きな話題となり、世界的に名声を得るようになりました。
ソーヴィニヨン・ブランの特徴
ブドウの特徴
ソーヴィニヨン・ブランの葉は小さめで明るい緑色をしています。ブドウの粒は小さめで果皮が薄く、完熟すると緑色から濃い黄金色になるのが特徴です。名前の由来は、フランス語の形容詞で「野生」を意味するSauvage(ソヴァージュ)と、「白」を意味するBlanc(ブラン)からきています。ソバージュ!? 聞き覚えのある方もいるかもしれませんが、日本で昔流行したゆるやかなウェーブの髪型を表すのに使われた「ソヴァージュ」もフランス語が語源なのです。
ソーヴィニヨン・ブランの香りには「メトキシピラジン」という物質があり、メトキシピラジンが他の要素と重なることで、ハーブや柑橘系のニュアンスが出ます。このメトキシピラジンは赤ワイン用品種の「カベルネ・ソーヴィニヨン」などにも含まれていて、【ピーマンの香り】と表現されます。
味わい・香りの特徴
ソーヴィニヨン・ブランの香りは、【ブドウの育った気候により味わい・香りが変化する】のが特徴です。基本的に柑橘系や青々しい香りですが、フランスなどの冷涼なエリアではフレッシュなレモンやグレープフルーツ・ハーブの香り、ニュージーランドのマールボロなど日照時間が長く温暖なエリアでは、パッションフルーツなどのフランスでは感じることのできないトロピカルフルーツの甘くてジューシー、そして華やかな香りを感じます。
●ソーヴィニヨン・ブランの代表的な香り
果実: レモン、ライム、グレープフルーツ、マンダリン、青リンゴ、トロピカルフルーツ
野菜: アスパラガス、パセリ
ハーブ類: レモングラス、カシスの新芽、芝生
ソムリエやワインエキスパートの資格を取得した方ならたくさんのワインを飲んできているので、ブラインドでこのワインの品種はこのブドウ、とある程度判別できると思いますが、ブドウ品種の中でも「ソーヴィニヨン・ブラン」は、特にわかりやすい香りです。
私が2019年に受けたワインエキスパートの二次試験のテイスティングでは、運よく大得意なニュージーランドのソーヴィニヨン・ブランが出題され、正解することができたので嬉しかったです。ワイン初心者の方でもソーヴィニヨン・ブランの香りは10本程度飲むうちにわかるようになると思います。
また、ワインスクールに通い始めた頃、ワインショップでソーヴィニヨン・ブランを購入して飲んでみたところ、変わった匂いがしたためブショネ(劣化したワイン)かと思い、スクールの先生に飲んでもらいました。すると「これはブショネではなく、猫のおしっこ 麝香(じゃこう)の香りです」と言われたことが今も強く印象に残っています。この表現はマイナスなイメージになるのであまり使われませんが、ソーヴィニヨン・ブランの香りに表現される一つなので覚えておくといいでしょう。
シャルドネとソーヴィニヨン・ブランの違い
シャルドネのワインはオーク樽との相性が良いため、樽発酵や樽熟成といった醸造方法が典型的なスタイルで、特にニューワールドと呼ばれるアメリカやオーストラリア、チリなどのワインは樽のアロマが強いものが多いです。樽を使ったワインからはバターやナッツ、バニラのリッチな樽香を感じることができます。ですが、全てのシャルドネに樽が使われるわけではありません。牡蠣とのマリアージュで有名なフランスブルゴーニュ地方の「シャブリ」はシャルドネから造られていますが、ステンレスタンクで醸造したものが多いため、ソーヴィニヨン・ブランのようなフレッシュな柑橘系の香りとシャープな酸味、ミネラルを感じることができるのです。
というわけで、ソーヴィニヨン・ブランと、近いニュアンスのあるシャブリとを比較してみました! シャブリとソーヴィニヨン・ブランの違いは一体何なのでしょうか?
左 | 右 | |
ワイン名 | プティ・シャブリ | アティチュード |
生産地 | ブルゴーニュ | ロワール |
生産年 | 2017年 | 2018年 |
アルコール度数 | 12.5% | 12.5% |
色 | レモンイエロー | レモンイエロー |
香り | 柑橘・リンゴ | 柑橘・ハーブ |
味わい | スムース | ドライ |
シャルドネの色調は【イエロー/レモンイエロー】ソーヴィニヨン・ブランは【グリーンがかった/レモンイエロー】と表現されることが多いですが、この2本の場合はほぼ同じレモンイエローでした。
両方とも辛口の味わいで、ミネラル感が豊かなので牡蠣や魚料理に合いますが、「シャルドネ」のプティ・シャブリの方が、より日本酒に近い繊細さを感じました。ワインが食事の邪魔をすることがないので、生牡蠣やお寿司に合いますね。「ソーヴィニヨン・ブラン」のアティチュードの方がスーッとしたミントやハーブのニュアンスが強いため、牡蠣の香草パン粉焼きなどハーブを使った調味料と合わせるといいでしょう。
飲み比べたことで、品種の個性がみえてきましたね。
ソーヴィニヨン・ブランに合う料理
ペアリングのポイントは、ワインと料理に共通した香りの特徴を合わせることなので、ソーヴィニヨン・ブランに合わせる料理は、レモンやすだちをギュッと絞るような料理や青さを感じるサラダ、ハーブなどと相性抜群です。サラダに合うワインなんて、ダイエット中の女性に(健康に気を遣っている男性にも!)嬉しいですよね。
また魚介料理にも◎です。ソーヴィニヨン・ブランのもつ酸味やミネラル感が魚の臭みを取る役割をしてくれます。
以下より、私が実際にソーヴィニヨン・ブランに合わせて美味しかった料理をレポートします。
スモークサーモンとアボカドのサラダ
味付けはレモン汁とオリーブオイルとクレイジーソルト。レモンの酸味とソーヴィニヨン・ブランの溌剌とした酸味が相まって最高!
アスパラガスのオーブン焼き
アスパラガスをローズマリーと一緒にオーブンで焼いて、目玉焼きを乗せただけのシンプルで簡単な料理。ソーヴィニヨン・ブランは茹でたアスパラガスの香りがするとも言われているため、青さが香るアスパラガスにはソーヴィニヨン・ブランがぴったり! 仕上げにパルミジャーノ・レッジャーノチーズをかけて完成です。
ソーヴィニヨン・ブランのおすすめワイン
コント・ラフォン サンセール
(Comte Lafond Sancerre)
生産年 2018年
国 フランス ロワール
アルコール度数 12.5%
ソーヴィニヨン・ブラン100%
サンセールを代表する造り手の名門ラドゥセット。ステンレスタンクで醸造することで、ソーヴィニヨン・ブラン本来のフレッシュ、フルーティーさを最大限に引き出しています。サンセール独特の土壌から得られるミネラル感。爽やかなレモン、グレープフルーツ、小さい白い花の香り。綺麗な酸が続きうっとりするような上品なワインでした。
クラウディ・ベイ
(Cloudy Bay)
生産年 2018年
国 ニュージーランド マールボロ
アルコール度数 13%
ソーヴィニヨン・ブラン100%
ニュージーランド マールボロのソーヴィニヨン・ブランを世界中に広めたクラウディ・ベイ。
熟した南国フルーツの華やかで甘い香りに、ミントやハーブのアロマが強く、嗅いでいるだけで幸せな気分になります。味わいはすっきりとした爽やかな辛口で食事にも合わせやすいです。この豊かな果実味と爽やかなキレのある余韻はくせになります。ワインを開けてから2日後にも飲んだのですが、パッションフルーツの香りがより一層強くなっていました。
フランシスカン
(Franciscan)
生産年 2017年
生産国 アメリカ カルフォルニア ナパ・ヴァレー
アルコール度数 13.5%
ソーヴィニヨン・ブラン89%、マルバシアビンカ9%、シャルドネ1%、セミヨン1%
アメリカの「オーパスワンの隣の畑」で有名なフランシスカンです。
厳選したブドウをブレンドすることにより、芳醇で複雑味がある仕上がりに。
ソーヴィニヨン・ブランらしいレモンやライムなど柑橘系の香りよりも、青リンゴや洋ナシの熟した甘い香りが強く、フレッシュな酸味に厚みのある果実味が合わさったワインです。
いかがでしたでしょうか。ソーヴィニヨン・ブランはコルクではなく、「スクリューキャップ」のワインも多いので、ワインオープナーがなくても手で簡単にワインを開けることが可能です。お花見やバーベキュー、キャンプなど気軽にワインを楽しむのにぴったりですね。ソーヴィニヨン・ブランを一度も飲んだことのない方も、飲んだことがある方も、是非色々な国のソーヴィニヨン・ブランのワインを飲み比べて、香りや味わいの違いを楽しんで欲しいと思います。
■参考資料
2019年 日本ソムリエ協会 教本
記事内容は記事作成時点の情報となります。
J.S.A.ソムリエ、調理師、食生活アドバイザー2.3級を取得。旅行コンサルタント会社で旅館ホテルなどへの飲料提案を行う。現在は都内フレンチでソムリエとして活躍中。