シュナン・ブランというブドウをご存知でしょうか? 素晴らしい白ワインを生み出すこの品種について、詳しく解説します。
シュナン・ブランって何?
シュナン・ブランは白ワイン用のブドウ品種で、一般に広く知られているものではありませんが、近年最も注目を集めているブドウ品種のひとつです。
シュナン・ブランの特徴は、生産できるワインの多彩さとアロマティックさ、充実した酸味です。このブドウから生産できるのは、基本的にはスパークリングワイン、ライトなタイプ、コクのあるタイプ、デザートワインという、4つのスタイルのワインです。
味わい
スティルワインにおいてはアロマティックかつ濃密な香りと味わいで独特な個性を持っています。
また、甘口ワインを生産するブドウ品種はいくつもありますが、その糖度に見合うだけの酸を併せ持つかが重要な要素になります。その点、シュナン・ブランは多くの白ワイン用ブドウ品種の中でもとりわけ素晴らしい酸味を持っていることが特徴のひとつでもあります。
アロマティック(華やかな香り)系で有名なブドウというと、ソーヴィニョン ・ブランやリースリングといった品種がよく知られていますが、このシュナン・ブランはアプリコットや蜂蜜のような甘やかな香りがあるのが特徴です。
様々なスタイル
生産者の個性を反映させるブドウでもあります。ロワール地方のサヴニエールというエリアでは敢えて酸化させたものもみられます。
スパークリングワインでは、フランス・ロワールではクレマン・ド・ロワール
(瓶内二次発酵方式) と呼ばれるものが、南アフリカではキャップ・クラシック(同じく瓶内二次発酵方式)と呼ばれるのものが生産されています。
ライトなタイプは、主に南アフリカの手頃な価格のものと、ロワールでsecと表記されたものが多くみられます。軽く爽やかで、ライムのような香りがあります。
コクのあるタイプは、ロワールの温暖な年や、南アフリカで生産されます。蜂蜜やネクタリンのアロマを纏います。
デザートワインは、主にロワールのアンジュー地区のコトー・デュ・レイヨンというAOCで生産されます。ここではシュナン・ブランの甘口の白ワインのみの生産が認められています。また、ロワール川の支流のレイヨン川の影響で朝霧が発生し、貴腐が生じることがあります。このコトー・デュ・レイヨンという地域の中にカール・ド・ショーム、ボンヌゾーというエリアがあり、こちらは特に温暖でブドウが過熟しやすく貴腐も発生するため、甘口ワインの産地として有名です。
産地
50%強が南アフリカで栽培され、フランスがさらに25%ほどの割合で栽培しています。この2カ国で8割ほどを占めています。
南アフリカで栽培されるシュナン・ブランの多くはワイン用ではなく、ブランデー用に使われます。
フランスではロワール地方のアンジュ地区とトゥーレーヌ地区が多くを占めます。
その他の栽培地域は生産量は多くはありませんが、アルゼンチン、チリ、オーストラリア、ニュージーランド、カリフォルニア、比較的新しい産地としては、メキシコやウルグアイなどが挙げられます。
*フランス五大白ワインのひとつ
最近ではこの言葉はあまり聞かなくなってきてはいますが、フランスには伝統的に素晴らしい白ワインがあり、その評価は今でも揺るぎないものです。そのひとつに認められているロワール地方のクーレ・ド・セランでは、シュナン・ブランを100%用いて白ワインが生産されています。
ビオディナミ農法の第一人者である**ニコラ・ジョリー氏が単独所有する畑のシュナン・ブランから生み出される白ワインです。なんとこのワインは飲む24時間前に抜栓することがオフィシャルに勧められているのです。そして、このワインがもつ真価を発揮できるのは、開栓から数日経ってからと言われるほどです。驚くほどの厚みを、酸とミネラルが下支えし、エレガントなワインに仕上げられています。
*フランス五大白ワインは美食の王子と称賛されたフランスの評論家であるキュルノンスキーが1930年代に提唱したものです。フランスの各地方からバランスよく選ばれています。ちなみに、クーレ・ド・セラン以外の4つの白ワインは、ボルドー地方ソーテルヌ地区の貴腐ワイン「シャトー・ディケム」、ブルゴーニュ地方ピュリニー・モンラッシェ村とシャサーニュ・モンラッシェ村にまたがる特級畑「モンラッシェ」、コート・デュ・ローヌ地方のコンドリューというエリアの中にある僅か3.5haの区画「シャトー・グリエ」、ジュラ地方で生産されヴァン・ジョーヌ(黄ワイン)とも言われる「シャトー・シャロン」です。
**ニコラ・ジョリー氏はもともとMBAを取得し、ウォール・ストリートの銀行に勤めていたビジネスマンでした。1976年にフランスへ帰国し、母が運営していたワイナリーを継ぎました。当初はワインコンサルタントのアドバイス通り、除草剤や化学肥料を使用していましたが、1980年代からルドルフ・シュタイナーが提唱するビオディナミによる栽培を実践しました。
シュナン・ブランの歴史
フランス・ロワール地方のアンジュ地区が生まれの地で、その歴史は845年まで遡ると言われています。
南アフリカでも古くからスティーンという名で栽培されていたのですが、シュナン・ブランと同一品種であることが確認されたのはごく最近でした。
料理との相性は?
お手頃な価格の南アフリカやフランス・ロワールの辛口タイプやスパークリングワインであれば、フルーツのサラダやシェーヴルチーズは安心して楽しめる定番の組み合わせです。
フランス・ロワールの比較的高価なものであれば温度を12度くらいにして、鶏肉や豚肉と共に美味しく楽しめると思います。
甘口タイプであれば、デザートやブルーチーズもオススメです。
如何でしたでしょうか。シュナン・ブランというブドウ品種はマイナーではありますが、伝統的であり、偉大な白ワインさえも生み出せる高いポテンシャルを備えた素晴らしいブドウ品種ということがお伝えできたかと思います。
決して高価なものばかりでなく、お手頃な価格帯でも美味しいものが沢山ありますので、ワインショップなどで白ワインを買う際はぜひ「シュナン・ブラン」をお試し頂ければと思います。
■参考文献
ソムリエ教本2019
10種のぶどうでわかるワイン 日本経済新聞出版社
The WINE 日本文芸社
記事内容は記事作成時点の情報となります。
フランス料理店勤務時にソムリエに憧れ勉強を始め、23歳で日本ソムリエ協会認定ソムリエを取得。都内のミシュラン星付きのフランス料理店やビストロを経て現在中目黒B.B.S.DINING.にてソムリエとして勤務。