貴腐ワインは何故甘い? 何故高価? そんな疑問にお答えして、貴腐ワインの楽しみ方を解説します!
POINT
貴腐ワインってどんなワイン?
「貴腐ワイン」という呼称は、「高貴な腐敗」という言葉に由来します。貴腐ワインとは極上の甘口ワインを指し、その造り方がわかれば言葉の意味を理解できます。
貴腐菌(ボトリティス・シネレア菌)がブドウの果皮に付着し、菌糸が果皮にとても小さな穴を空けます。
その穴を通して果汁に含まれる水分が蒸発していき、果汁内の成分が濃縮されます。この状態になったブドウから究極の甘口ワインが生み出されるのです。
貴腐ワインの造り方
貴腐ワインの生産方法は特徴的です。前述の貴腐化したブドウを育てるには、特別な自然条件が整っていなければならず、収穫や醸造に手間がかかります。
特別な自然条件とは、「朝に霧が発生し、菌の生育に適した温度・湿度であること」「日中は晴れて乾燥していて、ブドウの水分蒸発が進みやすいこと」。このふたつの特殊な条件が揃わなければなりません。
手間とは、近年のブドウ栽培における収穫は効率重視で機械収穫が増えているのに対し、貴腐ブドウの収穫は手摘みで行われているのです。収穫時も同じ畑を何度も何度も回り、良い状態で貴腐菌がついたブドウを選別しながら収穫します。収穫したブドウも徹底的に選果され、ブドウも干しブドウ状態になっているので、搾汁量も非常に少ないのです。このような大変な労力をかけても少量しか生産できないため、貴腐ワインは高価になるのです。
世界三大貴腐ワイン
こちらでは、三大貴腐ワインをご紹介します。
ソーテルヌ
フランス・ボルドー地方にある「ソーテルヌ地区」は貴腐ワインの産地として最も有名です。
ブドウ品種はセミヨンを主体にソーヴィニョン・ブラン、ミュスカデルを用いて造られます。
この地域では、シロン川、ガロンヌ川が合流し、2つの河川の水温の違いから霧が発生します。
ここの地区の格付けの最上級に唯一認められている「シャトー・ディケム」は、まず知っておきたい世界最高峰の貴腐ワインの生産者です。
トロッケン・ベーレン・アウスレーゼ
トロッケン・ベーレン・アウスレーゼはドイツで生産されるワインです。この名称は収穫時の果汁糖度を基準に作られたランク付けのことで、地方名ではありません。
主にリースリングやオルテガというブドウ品種を使用し、主にモーゼル地方で、この地独特なエレガントな酸味を備えた貴腐ワインが生産されています。
誤解されがちではありますが、このランクの糖度に達すれば良いので、必ずしも貴腐ワインである訳ではありません。
トカイ
トカイはハンガリー・トカイ地方で生産される貴腐ワインで、主にフルミントというブドウを用いて造られます。
トカイ山の麓にあるボドログ川とティサ川合流点周辺にブドウ畑が広がっています。秋の日夜の寒暖差の影響で霧が発生する地域です。
諸説ありますが、トカイが貴腐ワイン発祥の地とされています。1650年頃、ハンガリーのトカイ地方ではオスマン帝国の侵略の影響でブドウの収穫が遅れ、過熟状態のまま霧が立ち込める季節になってしまい、ブドウがカビでクシャクシャになったものの収穫しワインにしたところ、偶然、素晴らしく甘くおいしいワインができあがり、これが貴腐ワインの始まりとも言われています。
また、仏王ルイ14世が「王のワインにしてワインの王」とトカイワインを讃えたという逸話も残っています。
その他の産地の貴腐ワイン
・アルザス地方
フランス北東部、ドイツに近いこの地方でも貴腐ワインがつくられていて、「セレクション・ド・グラン・ノーブル」と呼ばれています。
アルザス地方はフランスで最も降雨量が少ない地域のひとつとして有名です。ブドウ栽培には乾燥した気候であることが望ましいのですが、貴腐ワインの生産においてはより重要です。
ゲヴュルツトラミネール、ピノ・グリ、ミュスカ、リースリングという4種類のブドウが貴腐ワインの生産に認められており、それぞれ収穫時の最低糖度が規定されています。
・ロワール地方
フランス北西部のこの地方でも貴腐ワインがつくられています。
レイヨン川の影響で朝霧が発生し、しばしば貴腐菌が生じます。
メーヌ・エ・ロワール県にある27つの村で「コトー・デュ・レイヨン」というエリア名の甘口白ワインが、シュナン・ブランというブドウのみで造られています。
この中の限られたエリアでより厳しい規定を守ったもので、「ボンヌゾー」「カール・ド・ショーム」という地名のものもあります。
貴腐ワインの楽しみ方
飲む温度は?
おおむね8度くらいがオススメです。温度が高すぎると甘ったるくなってしまいますし、温度が低すぎると貴腐ワインの素晴らしい香りを楽しめなくなってしまいます。
飲むシチェーションは?
食後のデザート代わりにしてみてください。貴腐ワインの中で特に素晴らしいものは、ただ単体でそれだけを楽しみたくなります。
また、家飲みにもピッタリだと思います。通常のワインに比べ酸化のスピードが緩やかなので、開けた日に飲み切らなくても良いのと、ハーフボトルで売られているものが多いので、少しずつ楽しむことができます。
合わせて楽しむ料理は?
昔ながらの定番の組み合わせが2つあります。
・フォアグラ料理
コクや甘味のたっぷりしたものとよく合います。フォアグラと貴腐ワインの相性の良さは鉄板です。
・ブルーチーズ
チーズの中でも、とりわけ塩味豊かな青カビタイプのチーズと貴腐ワインは抜群に合います。塩味と甘味という対比する味わいで互いのバランスをとるという合わせ方です。
また、ご家庭で楽しむのであれば、チョコレートやドライフルーツもとってもオススメです!
貴腐ワインの最高峰、シャトー・ディケムの造り方
先程ご紹介したソーテルヌ地区のシャトー・ディケムは、なぜ世界最高と賞賛されるのでしょうか?
115haの広大な畑にはセミヨン種が80%、ソーヴィニヨン・ブラン種が20%栽培されています。収穫には140人が参加し、区画毎にグループに分かれて行います。同じ房から、通常でも5回、多い時では10回以上収穫します。シャトー・ディケムに限った話ではなく、貴腐ワインの生産では収穫期に雨が降ってしまうと糖分が流され、ブドウが酸化し使えなくなってしまいます。
出来上がったワインのブレンドの際にも極めて厳しい選別が行われます。大きなリスクを背負いながらこれだけの大変な苦労をかけても品質に満足ができなければ生産されません。1900年代の100年間では何と9回も生産されなかったのです。
シャトー・ディケムでよく知られる逸話に「ブドウ樹1本からグラス1杯分しか造られない」「100年以上熟成する」というものがあります。他を圧倒する最高峰の貴腐ワインであることがわかりますね。
日本の貴腐ワイン
日本では1975年にサントリー登美の丘ワイナリーで偶然貴腐ブドウが発見され、話題になりました。
その3年後、1978年に初の貴腐ワインが発売されました。
その後も日本では貴腐ワインが生産されてはいますが、日本の気候が貴腐ワインの生産に適していないため、極少量の生産となっています。
貴腐ワイン以外の甘口ワイン
甘口ワインの中では貴腐ワインが最も有名ではありますが、他にも甘口ワインを生産する方法がありますのでご紹介します。
遅摘みワイン
遅摘みは、通常よりもブドウの収穫時期を遅らせることにより果実を凝縮させ、糖度を高める方法です。
このタイプのワインは世界中で生産されていますが、フランスのアルザス地方や南西地方が最も著名な産地です。
アイスワイン
ブドウの収穫時期を冬まで遅らせ、果実が凍結したものから造られる甘口ワインです。果実内の水分のみが凍結し、他のエキス分が凝縮されることにより、糖度が高くなります。
冬に氷点下になる必要があるため生産できる国は限られていて、ドイツ、オーストリア、カナダで造られています。
酒精強化ワイン
発酵途中のワインにアルコールを添加し、ブドウの糖分を残して仕上げる甘口ワインです。4大酒精強化ワインというものがあり、スペインのシェリー、ポルトガルのマデイラとポート、イタリアのマルサラがこれに該当します。
おすすめの貴腐ワイン
シャトー・ドワジー・ヴェドリーヌ
先述のソーテルヌ地区でつくられる貴腐ワインで、ハーフボトルであれば3,000円台で入手できます。
貴腐ワインの銘醸地ソーテルヌを堪能できるコスパ最高の1本です。
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フランス料理店勤務時にソムリエに憧れ勉強を始め、23歳で日本ソムリエ協会認定ソムリエを取得。都内のミシュラン星付きのフランス料理店やビストロを経て現在中目黒B.B.S.DINING.にてソムリエとして勤務。