赤ワインの代表的な品種のひとつであるシラー。
スパイシーでパワフルな個性をもつこのぶどう品種から作られるワインについて、その特徴や旧世界・新世界の違い、料理との相性などについて解説します。
シラーってどんなぶどう?
シラー(Syrah)はワイン用黒ぶどうの主要品種のひとつで、フランスのコート・デュ・ローヌ地方ではセリーヌ(Serine)、オーストラリアではシラーズ(Shiraz)とも呼ばれています。
シラーは2015年には全世界で19万ヘクタールの栽培面積を占め、31の国で栽培されています。
■出典:OIV(国際ぶどう・ぶどう酒機構)の2017年 “Distribution-of-the-worlds-grapevine-varietie”レポート
フランスのコート・デュ・ローヌ地方原産ですが、現在は世界各地で栽培されています。
熟した赤黒系の果実の香り、血・鉄・スパイスの香りが特徴ですが、産地によって香りのニュアンスは異なります。
シラーの特徴
それではシラーからつくられるワインの特徴を具体的に解説いたします。
外観
・色調は濃く、紫がかった色味です。若いワインは特に紫の色調が強く、酸とタンニンが抗酸化作用をもたらすため青い色調が持続しやすく、熟成に時間がかかる傾向があります。
・冷涼な産地でつくられたものは色が明るく、温暖な産地のものは色が濃く黒っぽくなる傾向があります。
・アルコール度数が高くなりやすく、比較的強い粘性をもちます。
香り
・果実系:熟したブラックベリー、ブルーベリー、温暖地のものはプルーンを思わせる香りも。
・芳香・香辛料系:黒コショウ、血、鉄。クローブやチョコレート。熟成させるとジビエのような香り。スパイスのニュアンスは、冷涼地では黒オリーブ、温暖地ではシナモンのような甘い香りが特徴。
・樽香:樽を使ったものはフレーバーにより複雑味が加わります。
味わい
・力強いアタックをもつフルボディタイプのワインで、スパイシーな余韻があります。冷涼地のシラーは豊かな酸味が引き締まった印象を与え、温暖地のものは果実味豊かでボリュームが大きく感じられるという違いがあります。
・タンニンは比較的収斂性がある(=歯茎にくっつく感じがする)タイプです。
「スパイシー」なワインとは?
シラーの香りを表現する際に、「スパイス」という言葉がよく使われます。料理が「スパイシー」だ、と言うときは、ピリッとした辛さがあるものを指します。じゃあ、「ワインがスパイシー」って、「辛い」ってこと? と不思議に思われたことがある方もいらっしゃるかもしれません。ワインの場合は辛いわけではなく、コショウやクローブ、甘草、シナモン、ナツメグなど果実や花の香りでは説明しきれないワインのアクセントとなる複雑な香りを表現する際に使われます。
このスパイス感は、ぶどうの種子部分に由来します。シラーのぶどうの房は比較的粒が小さく、果汁を搾る果肉部分に対して種子の割合が高いため、スパイシーな特徴が表れやすいのです。
カベルネ・ソーヴィニヨンも、同じように粒が小さいという特徴を持っています。
シラーの主な産地
フランス(コート・デュ・ローヌ地方)
シラーの原産地である、フランス南部のコート・デュ・ローヌ地方。
北部は穏やかな大陸性気候のもと、川沿いの狭く急な斜面でぶどう栽培が行われており、南部は地中海に面し、穏やかな丘陵地でぶどう栽培が行われています。
同じローヌ川流域の銘醸地とはいえ、気候も地形も大きく異なるため、栽培されるぶどうの種類やワインの製法も大きく異なっています。
・北部(Côtes du Rhône Septentrional〈セプタントリオナル〉)
この地域の主な赤ワインのスタイルは、シラーを単一醸造、もしくはシラーを中心に他のぶどうとブレンドされたワインです。
8つの村名アぺラシオンが存在しており、以下の3つがシラーから特に偉大なワインを生み出します。
1.「Hermitage(エルミタージュ)」
ぶどう栽培に最適な、南向きの急な斜面をもつローヌを代表とする産地です。
シラーに、15%まで白ぶどうのマルサンヌ・ローサンヌという品種を混醸することが認められています。白ぶどうと混醸することで、シラーの強い個性がおだやかになります(と言っても、実際にはシラー100%でつくる生産者が多いそうです)。
地名の由来は、13世紀に十字軍の騎士ガスパール・ド・ステランベルグがこの丘の上に庵を結び「Ermite(エルミット=隠者)」として暮らしたことから。
鉄分を豊富に含んだ土壌からつくられる、鉄や黒コショウの香り、がっしりしたボディ感が特徴です。
2. 「Cote Roti(コート・ロティ)」
ローヌ最北端に位置し、切り立った急な斜面でぶどうが栽培されています。非常に日当たりがよく、地名も「焼け焦げた丘」を意味します。
シラーからつくられた赤ワインに、20%まで白ぶどうのヴィオニエをブレンドする事が認められています(※シラーと混植混醸された場合に限る)。
香りも味わいも力強く、色は黒っぽさを帯び、収斂性のあるタンニンをもちます。
3. 「Cornas(コルナス)」
ローヌ北東部、栽培可能な面積は約145haと非常に小さな畑です。日当たりのよい南向きの急斜面にあり、地名はケルト語で「焼けた大地」の意。
ローヌでシラーのみを使った赤ワインが義務付けられている、唯一のアペラシオンです。
シラー100%のワインということで、非常に濃厚でパワフル、かつ酸味と渋みが調和した円みのある味わいを特徴とします。
・南部(Côtes du Rhône Méridionales〈メリディオナル〉)
南部のシラーは、他のぶどうとのブレンド用に使用され、ワインに骨格とエレガントなニュアンスを加える優れた脇役となっています。
オーストラリア
オーストラリアは新世界の中で、シラー(現地ではシラーズ)が主要赤ワイン品種となっている唯一の国です。生産量は、黒・白ぶどう合わせても圧倒的なナンバーワンを誇ります。
・南オーストラリア州(South Australia)
最大のワイン産地で、オーストラリアンワインの半数はこの地で生産されています。ぶどう害虫であるフィロキセラに襲われなかった土地でもあり、世界で最も古いシラーズの樹が残っている場所です(1843年植樹、バロッサ・ヴァレーにあるラングメール・ワイナリーのシラーズ)。
最も有名な産地は「Barossa Vally(バロッサ・ヴァレー)」でしょう。“オーストラリアのシラーズの首都”とも言われ、シラーズが栽培面積の半分を占めます。
樹齢100年以上の古木が多数残っており、樹齢の高いぶどうならではの凝縮した味わいがワインに表れます。2009年には、樹齢の高いぶどうの保存のため、「Barossa Old Vine Charter(古木憲章)」が制定されています。
ブラックチェリーやプラムなどの赤黒系果実や、チョコレートの香り、そしてオーストラリアならではのユーカリの香りが特徴です。
この他、「Eden Valley(イーデン・ヴァレー)」や「McLaren Vale(マクラーレン・ヴァレー)」も高品質なシラーズの産地として有名です。
・ニュー・サウス・ウェールズ州(New South Wales)
オーストラリアのワイン産業発祥の地であるニュー・サウス・ウェールズ州でも高品質なシラーが生産されています。
「Hunter Valley(ハンター・ヴァレー)」は、白ぶどうセミヨンのイメージが強いのですが、実はシラーズの古木が豊富で、南オーストラリア州とは個性が異なる、引き締まった味わいのワインがつくられています。
「Canberra District(キャンベラ・ディストリクト)」では、“Clonakilla(クロナキラ) Shiraz Viognier”という、前述のコート・ロティに倣ったヴィオニエ混醸のシラーズがアイコンワインとして有名です。
その他の産地
暑さや乾燥に強いため、旧世界ではイタリア、スペイン、ポルトガル、新世界では米カリフォルニア州、南アフリカ、アルゼンチン、ニュージーランドなどで幅広く生産されています。
シラーはどんな料理に合う?
1. 肉料理
黒コショウをはじめスパイシーな香りとがっしりしたボディをもつシラーは、グリルした赤身肉、ビーフシチューなどの煮込み料理、ジビエなど肉料理と好相性です。
エレガントなコート・ドゥ・ローヌのシラーは、ぜひ長く熟成されたものを選んで鴨肉などと合わせて上品に。
また、パワフルなオーストラリアンシラーズには、ジューシーなハンバーガーをカジュアルに合わせてはいかがでしょうか。
逆に、エビや白身魚などの魚介類や酸味の効きすぎている料理との相性はあまりよくないので、避けた方がよいでしょう。
2. チーズ
特に、熟成したハード~セミハード系のチーズがよく合います。
パルミジャーノ・レッジャーノやゴーダチーズなど、熟成された旨味のあるチーズはフルボディのシラーとバランスよく合います。
シラーのおすすめ生産者とワイン
M.シャプティエ(コート・デュ・ローヌ)
1808年創業、家族経営のワイナリーです。
エルミタージュに34haの畑を所有しており、同アペラシオン最大の畑所有者となっています。ビオディナミ農法を実践し、畑のテロワールを重視するワインづくりで知られています。
●おすすめワイン: M.Chapoutier Hermitage Rouge Monier de la Sizeranne 2011(エルミタージュ ルージュ モニエ・ド・ラ・シズランヌ)
エルミタージュの3つの畑のブドウをブレンドしてつくられる、エレガントでなめらかなタンニンをもつワインです。
ギガル(コート・デュ・ローヌ)
1946年創業、現在ではローヌ北部最大の生産者かつ、代表的なアペラシオンを多数所有し、ローヌワインを代表する生産者です。
コート・ロティの「ラ・ムーリンヌ」「ラ・ランドンヌ」「ラ・テュルク」といった自社畑でつくられるワインは、Wine Advocate誌で幾度となく称賛されています。
●おすすめワイン: Côte Rôtie Ch.d’Ampuis 2011(コート・ロティ シャトー・ダンピュイ 2011年)
シラー97%、ヴィオニエ3 %でブレンドされ、新樽で38か月熟成。フルーティで濃厚な香りにきめ細かいタンニンが長く持続します。
ペンフォールズ(オーストラリア/バロッサ・ヴァレー)
1844年以来の伝統をもつ、オーストラリアで最も有名なワイナリーのひとつ。
アイコンワインは1950年代にチーフワインメーカーMax Schubert(マックス・シュバート)によってはじめられた「グランジ」。“マルチ・リージョナル・ブレンド”といわれる、シラーズを中心に複数の畑のぶどうをブレンドしてつくられる長期熟成型のワインです。
●おすすめワイン: St. Henri Shiraz(セント・アンリ・シラーズ)
「グランジ」は1本10万円~と非常に高価ですが、こちらのワインは1万円前後~と比較的リーズナブル。プラムやブラックベリーを思わせる濃厚な果実に、チョコレートやオーク・コショウなどスパイス香というオーストラリアンシラーズの特徴がよく表れつつ、上品なバランスのとれたワインです。
いかがでしたでしょうか。品種の個性が強くありつつも、産地によってさまざまな違いを楽しめるシラー。
ぜひ、お気に入りの産地や生産者を見つけてみてくださいね!
■参考書籍
ソムリエ教本(2019年版)
10種のぶどうでわかるワイン
ワインの世界地図
ワインテイスティングバイブル
記事内容は記事作成時点の情報となります。
飲料のブランディングや広報を経験後、J.S.A認定ソムリエ資格を取得。現在は都内で酒類・飲料メーカーに勤務。
知識ゼロから一発合格を果たした経験と歴史・文化の知識を活かして、ワインをわかりやすく解説します。