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黒ぶどうの定番、「ピノ・ノワール」とは?
「ピノ・ノワール」と言えば、ワイン用黒ぶどうの定番中の定番ですね。
レストランやワインバーでワインリストを開き、「ピノ・ノワール」のワインだけでも何種類もあって、どれを選んだらいいかわからない! と思った経験がある方もいらっしゃるのではないでしょうか。
映画好きであれば、ピノ・ノワールへの愛に溢れた映画「SideWays サイドウェイズ」をご覧になり、愛好家の熱狂ぶりを垣間見た…という方もいらっしゃるかもしれません。
本記事では、世界中のワイン好きが愛してやまない「ピノ・ノワール」について、その特徴や魅力、産地による違いやおすすめの料理などをご紹介します。
ピノ・ノワールの特徴
それでは、ピノ・ノワールのぶどう、そしてつくられるワインの特徴をご説明させていただきます。
ぶどうの特徴
ピノ・ノワールのぶどうは、果皮が薄く、青みを帯びた黒色〜紫色をしています。
冷涼な気候と、石灰岩質で鉄分を含み、水はけがよい土壌を好みます。
果皮が薄いため、つくられる赤ワインは色調が淡くなると同時に、カビや病気に弱く、栽培が難しい品種でもあります。
しかし、世界の様々な産地で栽培に挑戦する生産者が絶えません。このことが、ピノ・ノワールという品種の他にない魅力を物語っています。品質の良いピノ・ノワールのワインは希少であり、愛好家の探索心を掻き立てるのです。
ピノ・ノワールの名前の由来は?
「ピノ」は「松(pin)」、「ノワール」は「黒(noir)」を意味します。果実の色と、小粒な果実が密になっている様子が松ぼっくりのようであることからこの名前がついたようです。
ピノ・ノワールには様々な別名があり、
フランスのジュラ地方では「グロ・ノワリアン」、イタリアでは「ピノ・ネロ」、ドイツでは「シュペートブルグンダー」、オーストリアでは「ブラウアー・ブルグンダー」という別名(シノニム)で呼ばれているので、これらの産地のピノ・ノワールのワインを探すときには参考にしてみてください。
また、似た名前で「ピノ・グリ」や「ピノ・ブラン」といったぶどう品種が存在しますが、これらはピノ・ノワールが突然変異した品種です。
ピノ・ノワールでつくられたワインの特徴
ピノ・ノワールでつくられた赤ワインは、主に以下のような特徴を持ちます。
・外観
●明るいルビー色で、淡い色調(ただし、産地や醸造方法によって差があります)
●熟成させたワインには、オレンジの色調が入ります
・香り
香り高く華やかで、奥深い複雑性をもつのがピノ・ノワールならではの特徴です。
●ラズベリーやカシス、チェリーなど赤い果実に例えられるフルーティな香り
●スミレやバラなどの花の香り
●若いワインであれば血や鉄、熟成したものであればなめし皮のような動物系の香り
以上が基本的な特徴となり、産地や熟成の長さによって、コショウのようなスパイシーな香りや、森の下草、トリュフ、枯れ葉や紅茶のような香りも感じられます。
・味わい
●やわらかで穏やかなアタック
●豊かな果実味とエレガントさをもたらす酸味
●なめらかなタンニン
●アルコールはそれほど高くならず、中程度
●ライト~ミディアムボディ
以上が基本的な特徴となり、産地によって果実味と酸味のどちらが強く表れるかに差が生まれたり、樽熟成による苦味や渋味をもつものもあります。
ピノ・ノワールのスパークリングワイン
ピノ・ノワールと言えば赤ワインのイメージが強いのですが、実は高級スパークリングワインにも使用される品種です。
高級スパークリングワインの代表・シャンパーニュはピノ・ノワール、シャルドネ、ピノ・ムニエからつくられます。特に、ピノ・ノワールだけからつくられるシャンパーニュは「Blanc de noir ブラン・ド・ノワール(黒の白)」と呼ばれ、華やかな香りと厚みのある芳醇な味わいが特徴です(※ブラン・ド・ノワールは正確には、黒ぶどうのみからつくられるシャンパーニュを指すのでピノ・ムニエを含みますが、ピノ・ノワール100%であることが多いです)。
その他、イタリアの高級スパークリングワイン・フランチャコルダも同様にピノ・ノワールを使用することで知られています。
ピノ・ノワールの主な産地とその特徴
ピノ・ノワールは世界各地で栽培されています。有名な産地としては、フランス(主にブルゴーニュ地方)、イタリア、ドイツ、アメリカ、ニュージーランド、オーストラリアなどが挙げられます。それぞれの産地の特徴をご説明いたしましょう。
フランス・ブルゴーニュ地方
ピノ・ノワールの原産地であり、4世紀ごろにはすでに栽培が行われていたという記録があります。
冷涼な気候のブルゴーニュ地方で育ったピノ・ノワールでつくられるワインは、明るいルビー色で輝きのある外観、カシスやラズベリーのような赤い果実の香り、スミレやバラなど花のような香り、動物の血を思わせる香りも感じられます。味わいは、酸味が強くエレガントな印象となります。
古くから名声を得てきた、世界中のピノ・ノワールのお手本となる産地であり、世界一高価なワインのひとつである「ロマネ・コンティ」もこのブルゴーニュで生み出されます。
ブルゴーニュはテロワールが非常に個性豊かにワインに表れる土地であり、クリマ(ぶどう畑)はその土地の土壌・傾斜などの個性によって厳格に区画・格付けされていますので、一口にブルゴーニュといっても、生み出されるワインは千差万別です。
ドイツ
冷涼なドイツの中でも比較的温暖なアール地方などでピノ・ノワール(シュペートブルグンダー)が栽培されています。
明るい淡いルビー色の外観に、さくんぼやプラム、小ぶりな赤い花を思わせる可愛らしい香りをもち、シャープで繊細な酸と軽やかでフルーティな味わいが特徴です。
アメリカ
アメリカでは、主にカリフォルニア州のソノマやオレゴン州で栽培されています。
・カリフォルニア
ブルゴーニュに比べると温暖なこの地域でつくられるピノ・ノワールのワインは、ぶどうの熟度が高いため、色は濃いめのルビー色、赤い果実の香りも熟したものや、ブラックチェリーのような赤黒系の果実、コンポート、ジャムのようなニュアンスが強く表れ、豊かな果実味に、アルコール度数も高くなりやすく粘性もやや強めになります。
フレンチオーク樽で熟成することで、ヴァニラの香りが加わるのもこの地域の特徴です。
・オレゴン
ブルゴーニュと緯度がほぼ同じで、海流の影響で冷涼な気候のオレゴン州の海沿い地域で栽培されるピノ・ノワールは、高い評価を受けています。
凝縮した果実味が豊かで、クランベリーや、よく熟したものだとダークチェリーの香りに、少しスパイス感や動物的な香りの印象があるものもあります。
ニュージーランド
セントラルオタゴ、カンタベリー、ワイパラなどの涼しいエリアで栽培されているピノ・ノワールは、日照量の多さと冷涼な気候のバランスから、非常に優れたワインを生み出します。
ピノ・ノワールのワインの中でも最も色が濃くなる傾向があり、ブラックチェリーのような赤黒系のフルーツやスパイシーな香りが特徴的です。タンニンも少し力強さを感じ、厚みのある味わいながら酸味がほどよく引き締まった後味を感じさせます。
チリ
カベルネ・ソーヴィニヨンのイメージが強いチリですが、カサブランカ・ヴァレーを中心とする冷涼な気候の地区ではピノ・ノワールが栽培されています。
日照量が多い一方、海流や海からの風の影響で夜に気温が下がるため1日の気温差が大きいこの地域独特の気候は、ぶどうの熟度が高いのと同時に、酸が残りやすく、果実の中にゆっくりと凝縮された香りをもたらすというメリットがあります。
つくられるワインは、香りが華やかで、果実味と酸味のバランスが優れており、かつリーズナブルに入手できます。
ピノ・ノワールに合う料理
ピノ・ノワールに料理を合わせる際は、お肉であれば鴨や鶏、厚みのある味わいのピノ・ノワールなら赤身の牛肉などをおすすめします。味付けは、鴨のローストやローストビーフなど、ピノ・ノワールの香りやなめらかなタンニンを邪魔することなく楽しめる、シンプルなものをおすすめします。
ブルゴーニュ地方の郷土料理である、「コック・オー・ヴァン(鶏肉の赤ワイン煮込み)」や「ブッフ・ブルギニヨン(牛肉の赤ワイン煮込み)」にチャレンジしてみるのも◎。
マッシュルームの香りのニュアンスをもつピノ・ノワールなら、マッシュルームなどのきのこを付け合わせに選ぶのも相性がよいでしょう。
酸味が強いので、サラダにもよく合いますし、サワークリームをのせたクラッカーや、ブルゴーニュの名物であるマスタードをチーズやサーモンなどに添えて召し上がるのもおすすめです。
ピノ・ノワールのおすすめワイン
ブルゴーニュのピノ・ノワール
ブシャール・ペール・エ・フィス ブルゴーニュ ピノ・ノワール 〈ラ・ヴィニエ〉
(Bouchard Père & Fils Bourgogne Pinot Noir 〈La Vignée〉)
創業1731年のブルゴーニュワインの名門「ブシャール ペール エ フィス」社の赤ワイン。
ブルゴーニュの赤ワインづくりの中心地であるコート・ドールのピノ・ノワールを100%使用した、ブルゴーニュワインの入門用におすすめのワインです。
ラズベリーやチェリー、いちどのような小さな赤い果実の繊細なブーケ、ほのかな樽香、なめらかなタンニンでシンプルながら上品につくられたワインです。
ブルゴーニュのピノ・ノワールを買うのであれば、最低でも3,000円以上のものをおすすめしたいのですが、こちらのワインはそれを下回る価格ながら、非常にコストパフォーマンスが高い1本です。
ドメーヌ・ミシェル・ノエラ ヴォーヌ・ロマネ
(Domaine Michel Noellat Vosne Romanee)
19世紀設立の家族経営ドメーヌ、ミシェル・ノエラがつくるワインです。
ブルゴーニュの中でも名高い「ヴォーヌ・ロマネ」村で代々ワインづくりを行うドメーヌが生み出すこのワインは、フランボワーズやチェリーなどの赤い果実の香りに、スミレの花や血の香り、ハーブのニュアンスなど様々な香りが複雑に絡み合い、エレガントな酸味となめらかなタンニン、そして長く続く余韻をゆっくりと味わっていたい優美な1本です。
同ドメーヌのプルミエ・クリュ、そしてグラン・クリュのワインは、さらに密度が濃く複雑な香りとなり、余韻は長く、長期熟成が可能になるため、ぜひ当たり年のものを探して特別な日のワインとして取って置くことをおすすめしたいです。
アメリカのピノ・ノワール
リトライ ピノ・ノワール
(Littorai Pinot Noir)
リトライ社がソノマ・コーストでつくるピノ・ノワール。
カシスやチェリー、ブラックベリーなどの赤~赤黒系の果実の香りがぐっと凝縮され、カリフォルニアのピノ・ノワールらしい、パワフルなフルーティさと緻密ながらぐっとくるタンニンで、アタックは強いながらも余韻はエレガントと、非常に印象的なワインです。
香りの持続性が非常に高く、飲んだ後に口の中にずっと香りの余韻を感じることのできる、幸福度(口福度?)の高いワインとしておすすめします。
オーストラリアのピノ・ノワール
リトル・ペンギン ピノ・ノワール
(Little Penguin Pinot Noir)
美味しいピノ・ノワールを探そうとすると、どうしても値段が高くなってしまいがちです。その中でこちらのワインは、1,000円以下とかなりリーズナブルな価格ながら、イチゴやチェリーなどの赤い果実のフルーティさにオーク由来の樽香、スパイス感が加わり、シンプルながらもピノ・ノワールの特徴がよく表現されたコストパフォーマンスの高い1本です。テーブルワインとして日常使いしたくなるワインです。
ニュージーランドのピノ・ノワール
マウント・ディフィカルティー ローリング・メグ ピノ・ノワール
(Mt Difficulty Roaring Meg Pinot Noir)
マウント・ディフィカルティ社がセントラル・オタゴの厳選された畑で生み出すピノ・ノワールです。
よく熟したブラックベリーやブラックチェリーの香りに、オーク樽由来のスパイシーさ・スモーキーさが加わった芳醇な香りに、素直な果実の甘さと程よい酸味、長い余韻が楽しめる1本です。
日本のピノ・ノワール
キスヴィン ピノ・ノワール ロゼ
(Kisvin Pinot Noir Rose)
最後に、日本のピノ・ノワールのご紹介です。日本ではピノ・ノワールの栽培が難しく、成功しているワイナリーは多いとは言えません。その中で、山梨県のキスヴィンワイナリーは、第13回世界最優秀ソムリエ・コンクールの優勝者であるジェラール・バッセ氏が、キスヴィン ピノ・ノワール(2015年ヴィンテージ)を飲んで高く評価したことから、一気に注目を集めることになりました。
残念ながらピノ・ノワールの赤ワインは毎年発売後に即完売状態のため入手が難しいのですが、同じくピノ・ノワールを使用したロゼワインが2017年からリリースされ、比較的購入しやすい状態です。
セニエ法でつくられたこのロゼワインは、フレッシュな赤い果実の香りで飲み口は甘い印象ながら、辛口で厚みがあり飲み終わりはきりっと締まった、飲みごたえのある1本です。
以上、世界中で愛され、「赤ワインの女王」とも言われるピノ・ノワールについてご説明させていただきました。品質の高いものは長期熟成させ、待つ年月を楽しむのもピノ・ノワールの醍醐味です。
栽培される土地の影響を非常に受けやすい品種ですので、ぜひ旧世界・新世界の色々な土地のピノ・ノワールのワインを飲み比べて、お気に入りの産地や生産者を見つけてくださいね。
記事内容は記事作成時点の情報となります。
飲料のブランディングや広報を経験後、J.S.A認定ソムリエ資格を取得。現在は都内で酒類・飲料メーカーに勤務。
知識ゼロから一発合格を果たした経験と歴史・文化の知識を活かして、ワインをわかりやすく解説します。