ソムリエという職業の世界では「コンクール」があります。あまりイメージが湧かないかも知れませんが、この記事をお読み頂ければ、ソムリエにはどんな資質・能力が求められるかといったことも知って頂けると思います。
POINT
世界最優秀ソムリエコンクール
3年に1度開催される、世界一のソムリエを決めるコンクールです。直近では2019年にベルギーのアントワープで16回目となるコンクールが開催されました。
日本人ソムリエでは、有名な田崎真也氏が1995年の東京大会で優勝し、日本人唯一の世界最優秀ソムリエのタイトルを獲得しています。
2019年3月に50周年を迎え、16回目の開催となった世界最優秀ソムリエコンクールには、歴代最高の63カ国から66人のソムリエが参加しました。
ヨーロッパ大陸、アメリカ大陸、アジア・オセアニア大陸の大陸優勝者が出た国(今回はラトヴィア、カナダ、日本)はもう1人代表を送れるため、日本からは森覚ソムリエと、岩田渉ソムリエの2名が参加しました。そして森ソムリエは17位、岩田ソムリエは11位という結果を収めました。
優勝はドイツ代表のマルク・アルメルト選手(27歳)、2位はデンマーク代表の女性ニーナ・ジェンセン選手(26歳)で、若手ソムリエと女性ソムリエの活躍が注目された大会でした。
国内で開催されるコンクール

国内でもいくつかのコンクールが開催されています。多数のコンクールが開催されている時期もありましたが、現在ではその数は限られています。
全日本最優秀ソムリエコンクール
国内最大の全日本最優秀ソムリエコンクールは3年に1度開催されていて、上位2名はアジア・オセアニア大会へ進出することができます。世界大会に出場する日本代表になるためには全日本で優勝し、過去の優勝者と選考会で競って勝つか、アジア・オセアニア大会で優勝する必要があります。
国内で開催されるその他のコンクールを、審査内容に触れながら3つご紹介します。
ボルドー&ボルドー・シュペリュールワイン ソムリエコンクール
これまでに計3回開かれたこのコンクールの目的は「ボルドー&ボルドーシュペリュールワイン生産者と日本のソムリエの絆を深める」というものです。直近の第3回大会では35歳以下の年齢制限が設けられました。
審査内容として特徴的だと思ったのは、決勝でのパワーポイントを用いた「プレゼンテーション課題」の審査です。パワーポイントを使用するプレゼンテーションはソムリエとはなじみが薄いように思われますが、 ソムリエ機関誌によれば、 上司や取引関係者にプレゼンをするという機会はますます増えていくと予想される、ということでの出題だったようです。
結果は、決勝の課題のひとつであった「4種のワインに合わせて日本料理のコースメニューを提案」で点数が開いたようです。和食のコース自体を正しく理解していなければ提案できない課題でした。
ポメリーソムリエコンクール
「ポメリースカラシップソムリエコンテスト」「キュヴェ・ルイーズポメリーソムリエコンテスト」として過去15回開催された歴史あるコンテストが、2017年よりシャンパーニュをはじめとする世界のスパークリングワインに特化したコンクールとして開催されています。
決勝は準決勝の点数を持ち越すシステムで、筆記試験で差がついたようです。
2019年決勝の課題は下記です。
①テイスティング
「8種のスパークリングドリンクの生産地、原料、製法、銘柄を答えてください。」
この課題にはシャンパーニュはひとつも出題されず、ノンアルコールドリンクや長野のシードルも含まれるという難題でした。
②プレゼンテーション
「あなたはビストロチェーンの統括ソムリエです。客単価4,000円のお店が全国に30店舗あります。オーナーにポメリーブリュットロワイヤルを使って売り上げ促進のプレゼンテーションをしてください。」
③サービス
「こちらの2名様のテーブルではポメリー最高醸造責任者クレマン・ピエルロー氏を接待されているたいへんナーバスなお席です。ご要望を伺い、サービスしてください。」
④ペアリング提案
「こちらのシャンパーニュリストをもとに、メニューとのペアリングを提案してください。」
20種のシャンパーニュリストから提示されているフランス料理のコースに合うものを提案していくという課題です。さらにリストにはリリースされていないヴィンテージや名称が違うなどの誤表記があるので、それを指摘できれば加点となったようです。
日本語での審査は②のみで、それ以外は英語による審査でした。
ポルトガルワイン・ソムリエコンクール
2014年から開催されているこのコンクールは、ワイン・オブ・ポルトガル主催で2019年で6回目を迎えています。準決勝・決勝ともに差がついたのは語学力と時間配分やプロトコールへの配慮を含めたオペレーション能力だったようです。
2019年決勝の課題のひとつにペアリング提案があり、「こちらの懐石メニューそれぞれに合うポルトガルワインを英語で提案してください。」というものでした。 和食のメニューを英語で正確に表現できなければならない課題です。
【お品書き】
前菜 才巻海老帆立と帆立 雲丹黄身鼈甲飴 白松葉独活 白瓜 香味海苔 山葵オイル
魚料理 油目利休焼
肉料理 黒毛和牛唐柿玉子とじ松葉独活 椎茸 厚揚げ 生胡椒
食事 新生姜釜炊き御飯 卸し唐墨 花山椒
留椀 合せ味噌
香の物 三種盛り
甘味 焙じ茶シフォン 柚子ホイップ 塩キャラメル胡桃 季の物
その他テイスティング、サービス、提案により審査されました。
ここまでお読み頂き、コンクールでどのような審査が行われるのか、イメージができてきたかと思います。
コンクールではソムリエに必要とされる「幅広く深い知識」「サービス技術」「テイスティング能力」「語学力」「提案力」などが問われます。決勝の課題では筆記試験は行われませんが、年々筆記試験が重視されるようになってきているようです。日本代表の岩田さんは世界大会に向けて約2年間、毎日5-6時間を筆記試験の勉強に充てていたそうです。
若手ソムリエの登竜門「ソムリエ・スカラシップ」
28歳以下のソムリエ協会会員に参加資格のある大会で、これまでに9回開催されています(ソムリエ資格の有無は問われません)。
開催目的は「次世代を担うソムリエの育成、輩出」のため、厳密にはコンクールとされていないようですが、審査形式はコンクールと同様です。毎年開催されており、各回3名の最優秀賞者が選出されます。
スカラシップに選出された3名は全日本最優秀ソムリエコンクールに向け強化選手となり、ソムリエ協会からのサポートを受けられ、海外研修などの機会を得ることができます。
第9回ソムリエ・スカラシップに参加した所感
僕はこのスカラシップに参加したので、実体験を踏まえながら審査についてご紹介します。
毎年100名前後の方が参加されているようです。1次審査は全国で筆記試験と試飲が行われ、通過した33名がソムリエ協会の本部での2次審査に進み、2次審査は論文/筆記試験/口頭試問が行われ、12名が最終審査へ進みました。
2次審査の論文の課題は「人工知能が発達してもソムリエはなくならない職業と言われています。これについてあなたはどう思いますか? 自由に回答してください。(600字程度)」。論文の審査は多くの選手が平均点を上回り、点差が開いたのは筆記試験だったように感じます。
僕はコンクールのような場が初めてで、口頭試問では緊張して考えがうまくまとまらず、まともなプレゼンもできずとても後悔しました。後から審査員による全体へのフィードバックで、いかに「楽しそうに」プレゼンができるかもポイントだったことを知りました。どれだけ日々のサービスを審査の場でも表現できるかが大事かということを痛感しました。その他にも、いかに審査のポイントを把握しながら点数を稼げるかということも、初参加だとわかりにくい部分があったと思います。
また、このスカラシップはコンクールではないため、より「人間力」を審査されているようです。「この人にサービスをしてほしい」と思ってもらえることも重要で、このような審査の場でも、「接客業」としての本質は大事にされていると思いました。
僕は残念ながら2次審査で敗退しましたが、公開審査も観戦してきました。最終審査に通過した12名からさらに5名を選出しての公開審査です。スピーチ、アペリティフサービス、グラスワイン提案、テイスティングの4つの審査により、最優秀者の3名のスカラシップ生が選出されました。
熱い思いを込めて非常に明快なスピーチをする選手、常に謙虚な姿勢で審査を受ける選手、終始にこやかに話す選手と、とても個性が発揮された素晴らしいパフォーマンスで、観ていてとても刺激を受けました。
スカラシップに参加して感じたメリット・デメリット
今回の参加には、素晴らしい収穫がありました。2次審査の会場には全国から33名の同世代の方が集まり、審査後の交流会で沢山の仲間ができました。特に僕のように個人店に勤めていたりすると、同世代の仲間に出会える機会はなかなかありません。地方から参加している方からすれば、より貴重な場だったと思います。皆さんとても親切、スマート、ポジティヴで、志のある方ばかりで、「一緒に頑張っていきましょう」と刺激し合える仲間に出会えて本当に嬉しかったです。
デメリットは一切ないと思います。参加費もかからないので、参加資格のある世代の方は「試しに参加してみようかな」というくらいのスタンスで参加してみてはいかがでしょうか。
ソムリエと言っても現場で長く働き続けるタイプや、コンクールにチャレンジしていくタイプなどいろいろな方がいらっしゃいます。自分のヴィジョンを見つめ直す良い機会になると思います。
僕にとっては、「ソムリエとは何か」ということを深く考える機会になったと思います。「今の時代に求められるソムリエ像は何なのか?」「ソムリエにはどんな資質が必要か?」「自分の性格・特性をどうソムリエに活かすのか?」…こういったことを自分に問いかけることを、疎かにしていたことに気づきました。
僕は初参加で2次審査で敗退し、とても悔しくなりました。もっと勉強したいと思いましたし、何より今は次回の挑戦が楽しみで仕方ありません。
最後に
ソムリエ・スカラシップには、お若い方だと21歳からチャレンジされている方もいます。僕は24歳で初参加となりましたが、それまでは勇気が出ずにいたことも事実です。
この記事が同世代の方々の挑戦のきっかけとなることと、ソムリエという職業への認知に少しでも繋がれば幸いです。
■参考文献
ソムリエ協会機関紙
記事内容は記事作成時点の情報となります。

フランス料理店勤務時にソムリエに憧れ勉強を始め、23歳で日本ソムリエ協会認定ソムリエを取得。都内のミシュラン星付きのフランス料理店やビストロを経て現在中目黒B.B.S.DINING.にてソムリエとして勤務。